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心を癒やす音楽の力、1/fゆらぎのひみつ①


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さまざまな視点

コロナ禍でさまざまな日常行動が抑制される中、音楽に癒やしを求めた方も多いのではないでしょうか。近年、心身にリラックス効果をもたらし、音楽とも関係が深いとされる「1/fゆらぎ」に注目が集まっています。なぜ、1/fゆらぎが人々の心に心地よく響くのか。「ゆらぎ」研究の第一人者で大阪音楽大学大学院客員教授の佐治晴夫さんにお聞きしました。(全6回連載)

【第1回】
「1/fゆらぎ」とは

世の中のあらゆる存在はゆらいでいる

――「ゆらぎ」とはどういう状態のことを表しているのでしょうか

佐治晴夫(以下、佐治):「1/fゆらぎ」と音楽の関係についてお話しする前に、まずは宇宙の起源の話から始めましょう。なぜなら、宇宙の中で人間がいかにして進化してきたのか、その進化の歴史そのものをたどって音楽は生まれてきたからです。

宇宙は今からおよそ138億年の遠い昔、空間も時間もない状態から突如として限りなく熱くまばゆい小さな光の粒として爆発するようにして誕生しました。「ビッグバン」です。その後、急速に膨張していった宇宙は、温度を下げて、光はしずくになり、そこから全てのものを作る素になる基本粒子が生まれ、それらが互いに結合して「原子」や「分子」が姿を現しました。

これらの基本粒子は意志を持っていないため、デタラメに自由に動こうとします。しかし、自分の周囲にも同じような粒子がたくさん存在するために、自由に動くことができません。この自由と不自由の拮抗によって、独特の変動、つまり「ゆらぎ」が生じます。その「ゆらぎ」は、私たちの身近にもたくさんあって、例えば、小川のせせらぎの音や自然風の風速の変動、上空の空気の密度ゆらぎによる星の瞬きの強弱、ろうそくの炎の明るさの変動などが挙げられます。例えば、今皆さんのいる部屋の温度が23℃だとしても、実はその23℃を中心にして、ごくわずかに上がったり下がったりゆらゆらしています。23℃ピッタリの状態を保持しようとするとこれは大変なエネルギーが必要になってくるんですね。このように、世の中のあらゆる存在はゆらいでいて、逆に言うと、ゆらいでいなければ存在できないということです。厳密にいえば、量子力学の基本原理である「不確定性原理」です。

「1/f」=半分予測できて、半分予測できない動き方

――世の中のあらゆるものがゆらいでいるんですね。では、「1/f」とは何を表しているのでしょうか

佐治:1/fのfとは周波数、あるいは振動数(Frequency)の頭文字です。このfとは、一つの「ゆらぎ」の中に含まれるたくさんの振動数の成分を表しています。そこで、1/fは、fの大きさに反比例するということですから、大きい変動はゆっくりと(1/fが大きいと振動数が小さく)、小さい変動ほどせわしなく(1/fが小さいと振動数が大きく)動いているような変動のことを1/fゆらぎといっているのです。

先ほど、基本粒子のデタラメな動きによってゆらぎが生じるとお話ししましたが、その動き方には典型的な三つのパターンがあります。

第1のパターンは、深夜、放送終了後のテレビの画面全体に満遍なく映る完全にデタラメな雑音のようなゆらぎ。数学的に言うと、低い周波数から高い周波数まで全ての周波数が均等に含まれている状態で、「白色雑音(ホワイトノイズ)」といいます。均等に含まれるということは、周波数に依存しないということで、そのことは1/f0 の値が1であることに対応します。つまり、1/f0ゆらぎとは、あらゆる振動数を含む変動だという意味において、白色雑音のことです。

第2のパターンは「ブラウン運動」と呼ばれる変動で、別名、ランダムウォークともいわれています。酔っぱらいの歩き方のような動きのことです。話を簡単にするために酔っぱらいが右か左にしか動けない1次元運動を考えましょう。最初の一歩目は、右に進むか、左に進むかのどちらかになります。二歩目は、一歩目の場所を基点として、左右のどちらかに進むことになります。つまり過去の状態に強く依存するゆらぎ方です。これは、数学的には、その変動の中に含まれる周波数の量が1/f2に比例することが分かっています。1/f2ということは、周波数が2倍になれば、その周波数を含む変動の大きさが1/4になり、周波数が3倍の変動成分は1/9になるということです。

この二つをまとめると、完全にデタラメで予測が不可能な動きが1/f0。デタラメではあるけれども、過去の結果に依存するので、おおよそ予想がつく動きが1/f2となります。そうすると、1/fというのはその中間。つまり、言葉で言えば「半分予測できて、半分予測できないような動き方」ということになるわけです。何か、人生に似ているような気がしませんか。明日はきっと来るでしょうが、明日になってみなければ分からないところもある……というような。それが「1/fゆらぎ」です。
取材・文/野田直樹(高速オフセット) 撮影/佐藤アキラ

佐治晴夫(Haruo Saji)
1935年東京生まれ。理学博士(理論物理学)。東京大学物性研究所、松下電器東京研究所を経て、玉川大学教授、県立宮城大学教授、鈴鹿短期大学学長などを歴任。現在、同短期大学名誉学長、大阪音楽大学大学院客員教授、北海道・美宙(MISORA)天文台台長。量子論的無からの宇宙創生に関わる「ゆらぎ」の理論研究の第一人者。現在は、宇宙研究の成果を平和教育へのひとつの架け橋と位置づけ、リベラルアーツ教育の実践に取り組んでいる。日本文藝家協会会員。主な著書に『ゆらぎの不思議な物語』(PHP研究所 1994)、『The Answers すべての答えは宇宙にある』(マガジンハウス 2013)、『14歳のための宇宙授業』(春秋社 2016)、『ヒトを作った宇宙・人間を育てた音楽~宇宙・人間・音楽の不思議な関係』(日本音楽療法学会学会No.21-2 2021 )、『マンガで読む14歳のための現代物理学と般若心経』(春秋社 2021)など。