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心を癒やす音楽の力、1/fゆらぎのひみつ②


さまざまな視点

コロナ禍でさまざまな日常行動が抑制される中、音楽に癒やしを求めた方も多いのではないでしょうか。近年、心身にリラックス効果をもたらし、音楽とも関係が深いとされる「1/fゆらぎ」に注目が集まっています。なぜ、1/fゆらぎが人々の心に心地よく響くのか。「ゆらぎ」研究の第一人者で大阪音楽大学大学院客員教授の佐治晴夫さんにお聞きしました。(全6回連載)

<< 前回のお話
第1回「1/fゆらぎとは」

【第2回】
1/fゆらぎはなぜ心地よい?

人類は宇宙のひとかけら

――風速の変動やろうそくの炎の明るさの変動は「半分予測できて、半分予測できない動き方」ということなんですね。では、なぜ人間は1/fゆらぎを心地よいと感じるのでしょうか

佐治:それは、脳や感覚など全てに宇宙の根源的性質が反映されているからです。すでにお話ししたように、ビッグバンによって宇宙が誕生し、基本粒子がたくさん集まって、水素や酸素、炭素、窒素、などさまざまな物質が生まれました。実は私たちの体を構成する要素も宇宙と同じで、多い順に、水素、酸素、炭素、窒素……です。基本粒子がたくさん集まってできる物質に1/fゆらぎが生まれるように、人間も生まれながらにして体内に1/fゆらぎを持っているわけです。

例えばこんな実験があります。
メトロノームで60BPMのテンポを刻んで、そのテンポに合わせて手を打つと、これは1/f0の白色雑音になります。でも、メトロノームのテンポを覚えて、空(そら)で手を打つと1/fゆらぎになるんです。メトロノームに合わせようとすることで人間はデタラメになってしまい、空で手を打つ方が心地よいテンポを刻めるというのが面白いですね。



さらに、ヤリイカを使った実験もあります。イカの神経軸索の一端に1/f0、つまりデタラメな間隔で電気パルスを与えると、それが軸索の反対側から出てくるときにはきれいに1/fゆらぎの間隔に整理されて出てくるんです。

これらの実験からも、1/fゆらぎは人体を含めた自然界に広く見られる現象だということが分かります。人間も宇宙のかけら(=自然の産物)だと考えれば、波の音や風のそよぎなど自然のリズムの中に身をおくことでリラックスできることも理解できるのではないでしょうか。つまり、外部から入ってくる自然界のゆらぎが体内に潜む潜在的なゆらぎと呼応するわけですからね。
――1/fゆらぎは生まれながらにして人体に刷り込まれたものなんですね

佐治:そういうことですね。「人類は宇宙のひとかけら」ということについて、もう少し数学の立場から説明しましょう。人間は0.2ミリの小さな受精卵が母親の胎内で約40週間の時を過ごし、赤ちゃんとしてこの世に生まれますね。このプロセスは、宇宙進化がたどってきたおよそ40億年の時間を50億倍の速さで追体験していると言えます。母親の胎内での一週間が宇宙の1億年に相当するということです。

このように、部分が全体を含み、逆に全体の中に部分が反映されているような性質を数学では「フラクタル構造」といいます。

フラクタル構造(PIXTA)

木を例に考えてみましょう。木は枝が分かれるとその先にまた小さい枝が出てきますね。その先にはまた小さい枝が出てきて、その先には葉っぱがあります。葉っぱの中には葉脈がありますが、全てがY字形の分岐の連続です。ロシアの有名な民芸人形「マトリョーシカ」も、大きい人形の中から同じ形の小さいものがどんどん出てくるという意味では、フラクタル構造だといえます。

とてつもなく大きい宇宙の中で「人間はそのひとかけらである」と言ってもピンとこないかもしれませんが、時間的なフラクタル構造で考えると、この宇宙が生まれてから今までの138億年の時間がひとかけらの人間の中に全部入っているとも考えられるというわけですね。そういう意味で、私たちは宇宙の一部分=宇宙のひとかけらだと言えるわけです。
取材・文/野田直樹(高速オフセット) 撮影/佐藤アキラ

佐治晴夫(Haruo Saji)
1935年東京生まれ。理学博士(理論物理学)。東京大学物性研究所、松下電器東京研究所を経て、玉川大学教授、県立宮城大学教授、鈴鹿短期大学学長などを歴任。現在、同短期大学名誉学長、大阪音楽大学大学院客員教授、北海道・美宙(MISORA)天文台台長。量子論的無からの宇宙創生に関わる「ゆらぎ」の理論研究の第一人者。現在は、宇宙研究の成果を平和教育へのひとつの架け橋と位置づけ、リベラルアーツ教育の実践に取り組んでいる。日本文藝家協会会員。主な著書に『ゆらぎの不思議な物語』(PHP研究所 1994)、『The Answers すべての答えは宇宙にある』(マガジンハウス 2013)、『14歳のための宇宙授業』(春秋社 2016)、『ヒトを作った宇宙・人間を育てた音楽~宇宙・人間・音楽の不思議な関係』(日本音楽療法学会学会No.21-2 2021 )、『マンガで読む14歳のための現代物理学と般若心経』(春秋社 2021)など。