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〈レビュー〉第46回邦楽演奏会


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研究生によるレビュー
〈大阪音楽大学大学院を修了後、専門分野を研究し続けている「研究生」。本記事では研究生が観覧したコンサートレビューをお届けします〉

ともすれば西洋音楽のイメージが強い“音楽大学”において、大阪音楽大学邦楽専攻は1967年の設置とかなり長い歴史を持っている(「箏コース」が始まり)。今年で46回を数える邦楽演奏会は、これまで積み上げてきた歴史の重さも感じさせると同時に、邦楽専攻で学ぶ学生たちの一年の締めくくりとなる一度きりの舞台でもある。どのような出会いが待っているかを楽しみにミレニアムホールへ足を運んだ。客席はさっと座れる席がすぐには見つからないほどの埋まり具合で、これも、これまでしっかりとファンを獲得してきたさすがの集客力と感じた。

1曲目《飛鳥の夢》

今回の演奏会のテーマは「KANSAI 都の景色」と題した、再来年の大阪・関西万博を意識した選曲とのことだった。演奏会は、緋毛氈に反射した照明の鮮やかな赤色が印象を決定づけた《飛鳥の夢》(作曲:宮城道雄)から始まった。一音めの揃った音からその“荘厳”さに身が震える思いがし、中間部の手事(歌を伴わない器楽のみの部分)では、息の揃った遠近感の表現が見事だった。オーケストラでは客演・助演とでも言うべき立場で演奏員・卒業生が出演していたが、彼らも含め全員暗譜で演奏するその集中力の高さにも驚かされた。

2曲目《なにWHAT!》

2曲目は箏曲部の高校生のために書かれたという《なにWHAT!》(作曲:菊重精峰)を学生のみの演奏で。幕間の片岡リサ特任教授の話では「『なにワッ!』と読んでほしい」旨が強調されていた。そのタイトルから期待するような現代的な響きは良い意味で裏切られ、むしろしっかりと古典的な響きで曲が構成されていた。手事の終盤で変拍子風の部分もあり、曲のおもしろさは十分伝わってきた。特筆すべきは前歌・後歌の部分で、前曲で披露した邦楽寄りの発声から一転、学生たちの等身大の“うた”という感じがした。特に後歌のテーマは覚えやすく、休憩中にロビーで「なにWHAT♪なにWHAT♪」と口ずさむ方とすれ違ってほほえましかった。

3曲目《有馬獅子》

奈良・大阪と来て3曲目は兵庫・有馬。元は三曲合奏(三絃・箏・胡弓)のために書かれた《有馬獅子》(作曲:峰崎勾当)が学生たちのみの三絃(三味線)合奏で演奏された(大阪音楽大学では複数の邦楽器を学ぶ課程が作られている)。前歌では“歌い分け”(独唱の分業)があり、これまで斉唱で歌っていた一人ひとりの顔が見える歌唱だった。この演奏会にはミュージックコミュニケーション専攻が担当する照明も全編入っていたのだが、この曲の背景の緑の照明と緋毛氈の色合いの奇抜さも印象的だった。
2024年度より「地域創生ミュージックコミュニケーション専攻」に改称

4曲目《越天楽変奏曲》

4曲目は再び舞台に全員が揃った《越天楽変奏曲》(作曲:宮城道雄)は平安朝の京(みやこ)の風景。元は箏の独奏とオーケストラのために書かれた曲を邦楽合奏でも演奏できる形にした版での演奏。独奏は片岡リサ特任教授が務めた。尺八と胡弓の持続音が流れるなかに箏・十七絃と鞨鼓などの打物が弾かれる、日本の伝統音楽特有の時間感覚に身を漂わせた。越天楽の主題がさまざまな楽器に現れる様子もおもしろかった。曲の冒頭は舞台にいきなり金屏風が立てられたかと思うほどのまばゆい灯りで効果的に目を引いたが、ラヴェルのボレロが照明を変えずとも楽しめるように、たとえ照明演出がなかったとしても観客を引っ張れる力が十分にあると感じる演奏だった。

演奏者が一人ずつ紹介された

学生がデザインしたパンフレット

幕間に紹介されたが、チラシ・パンフレットのデザインもミュージックコミュニケーション専攻の学生(4年生・澤田青空さん)が担当したということだった。説明されてから眺めてみるとたしかに関西の地図に見えてくる、センスの光る抽象的な図案だった。パンフレットの表紙を見ながら振り返ってみると「KANSAI 都の景色」のテーマに違わず、聖徳太子が生きた飛鳥から現代の浪速までという地域だけでなく時代も横断した選曲の妙が光った。アンコールの代わりにと一人ずつ名前を紹介された演奏者には、聴衆からはもちろん、そしてなにより舞台上での演奏者同士でお互いを称え合う惜しみない拍手が送られた。先輩・後輩の間柄を超えた邦楽専攻ファミリーのアットホームで強い絆を感じた。
Text/坂井威文(大阪音楽大学研究生)
Photo/(有)サンクスリソース