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大音生ドレス図鑑【後編】


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金の卵

前編の🔗ピアノ編に続き、後編では楽器も声も異なる6人を紹介します。

登場するのは、ヴァイオリン、マリンバ、クラリネット、そして声楽の学生たち。肩に楽器を構えるヴァイオリン。舞台上を大きく移動しながら演奏するマリンバ。息を使って音を生み出すクラリネット。そして、身体そのものが楽器となる声楽。

楽器や演奏のしかたが変わると、衣装に求める条件も大きく変わります。肩まわりが邪魔にならないこと。大きく動いても安心できること。しっかり呼吸できること。役や作品の世界観を、見た目から伝えられること。髪型やアクセサリー、靴、小道具まで見ていくと、それぞれの工夫や個性がさらに見えてきます。

6人の本番スタイルから、専攻ごとの違いをのぞいてみましょう。
※本記事は、学生9名へのアンケート回答をもとに構成しています。

DRESS FILE 04:
中村春花さん
大3・弦楽器(ヴァイオリン)

💭この一着!
冬の舞台に、黒ベルベット

楽器が構えやすい肩紐付きのドレスをセレクト

中村さんが紹介してくれたのは、上半身に黒いベルベットを使ったドレス。ウエスト部分には装飾があり、舞台に立つときらきらと輝きます。冬のコンクールで着るために、季節感のあるベルベット生地を選びました。見た目だけでなく、ヴァイオリンを弾くときに肩まわりが邪魔にならない形であることも大切です。

💭ヴァイオリンならでは
楽器を構えたときに気にならないこと

長時間の演奏でも疲れない低ヒールで

ヴァイオリンを構えたときに衣装が気にならないよう、チューブトップではなく肩紐のある形を選んでいます。長時間の演奏では、疲れにくいドレスを選び、靴も高すぎないヒールを。髪は演奏の邪魔にならず、目にかからないようにまとめます。髪飾りにも、ヴァイオリンならではの工夫があります。演奏するときに頭が右側を向くため、右側につけられるラインストーンのコーム型髪飾りを愛用しています。
DRESS DATA
手持ちの衣装 10着
よく利用するショップ 渋谷ウイングス
買い方の工夫 楽天スーパーセールを活用/母が着ていたドレスを着ることも
本番バッグの中身 ヘアピン、メイク直し道具
次に挑戦したい衣装 赤色のドレス
💭中村さんにとって本番衣装とは?
「その年の演奏曲を決め、ふさわしいドレスを選ぶ。衣装選びは楽しみでもあり、気合の入る瞬間です」

DRESS FILE 05:
千本萌花さん
院2・器楽(マリンバ)

💭この一着!
大きく動ける、黒のパンツドレス

和の世界観にも合う黒のパンツドレス

千本さんが紹介してくれたのは、黒のパンツドレス。尺八奏者との共演に合わせて、演目の雰囲気に合う和風のデザインを探しました。邦人作曲家の作品を演奏する機会も多く、そうした作品の世界観にも合わせやすい一着です。マリンバは演奏中に上半身の動きがよく見えるため、上半身にデザインのポイントがある衣装を選ぶことも意識しています。

上半身のデザインが特徴的

💭マリンバならでは
衣装も靴も髪も「動くため」に

マリンバでは、とにかく動きやすさが第一。腕の動きを妨げないよう、半袖やノースリーブを選ぶことが多く、長袖の場合は肘あたりで留められるようにゴムを通し、七分丈にアレンジすることもあります。舞台上を大きく移動するため、スカートではなくパンツドレスを選ぶことがほとんど。そして、靴にも理由があります。千本さんが履いているのは8cmヒール。自分がマリンバを演奏しやすい高さを考えて選んでいます。一般的な8cmヒールより足への負担を減らすため、つま先部分にも約3cmの厚みがあるものを使用。高さだけでなく、安定感や歩きやすさまで考えています。髪型はアップヘアやまとめ髪が多く、曲の躍動感を演出するために、あえて揺れるヘアアレンジを加えることもあるそうです。

動きやすさはもちろん、小柄さをカバーする全体シルエットも意識

DRESS DATA
手持ちのドレス 5着(パンツドレス2着、ドレス2着、ワンピースドレス1着)
頼れるアイテム 派手なネックレス
本番バッグの中身 安全ピン、ヘアピン、ヘアスプレー、予備アクセサリー、メイク道具
衣装の工夫 気になる部分は縫い直してフィットさせる
💭千本さんにとって本番衣装とは?
「曲と自分をつなぎ、舞台全体との一体感を生み出す大切な存在」

DRESS FILE 06:
澤谷涼凪さん
院1・器楽(クラリネット)

💭この一着!
ライトに映える、赤紫のAライン

舞台照明が映えるカラーとデザイン

澤谷さんが紹介してくれたのは、赤紫のAラインドレス。布が段々に重なっているためボリュームがあり、上から下まできらきらとしたデザインが入っています。舞台照明が当たったときに映えるところがお気に入りです。実技試験や学内オーディション、コンクールでは上下とも黒。演奏会では、曲の雰囲気に合った色や形のドレスを選ぶなど、本番によって衣装を使い分けています。

演奏会は曲の雰囲気によって衣装を使い分ける

💭クラリネットならでは
しっかり息を吸えること

澤谷さんがクラリネット奏者として一番気にするのは、「息がきちんと吸えるくらいのドレスの締め付け具合」。演奏に必要な呼吸を妨げないよう、腹部を締め付けすぎない衣装を選んでいます。アクセサリーは、髪色やドレスに合わせてゴールド、シルバー、パールなどを使い分けます。
DRESS DATA
手持ちの衣装 7着(うち黒ドレス1着)
よく利用するショップ TWEED DRESS/ANNABELLE
本番靴 ゴールドとシルバーが混ざったパンプス
本番バッグの中身 メイク直し、靴擦れテープ、ケープ
次に挑戦したい衣装 パンツドレス
💭澤谷さんにとって本番衣装とは?
「着ることでワクワクして舞台に立つのが楽しみになる、気持ちが上がるアイテム」

DRESS FILE 07:
野勢真稔さん
院1・声楽

💭この一着!
《魔笛》の王子・タミーノになる

大学4年で演じた《魔笛》での衣装

野勢さんが紹介してくれたのは、大学4年のときに授業で学んだ《魔笛》の衣装です。演じたのは、王子タミーノ。アジアンテイストを残しながら、ブーツやマント、髪型で「王子様」をイメージしました。衣装を選ぶときに一番大切にしているのは、演じるキャラクターに合っていること。この衣装も、自分が思い描いた王子様像に近いものを選びました。

💭声楽ならでは
衣装からキャラクターをつくる

役が変われば、髪型も少しずつ変えます。舞台では、立ち上がったり、しゃがんだりすることもあるため、動きやすい衣装であることも重要です。先生からは、不格好にならないよう、裾や襟に気をつけることも教わったそう。香水も好きで本番にはつけていますが、共演者が不快にならないよう、つけすぎないことを意識しています。
DRESS DATA
手持ちのスーツ 3着
手持ちのジャケット 5着
手持ちのベスト 3着
よく利用するショップ ファッションプラザ マッサン
お気に入り 貴族のようなベスト
次に挑戦したい衣装 全身派手な色のスーツ
💭野勢さんにとって本番衣装とは?
「視覚的にその曲やキャラクターを伝えてくれる相棒」

DRESS FILE 08:
遠山姫菜さん
大4・声楽

💭この一着!
衣装も、小物も、作品の世界をつくるもの

本番ごとにガラリと変わる衣装

遠山さんの衣装は、一着だけを取り上げるより、本番ごとの変化を見たほうが面白いかもしれません。オペレッタ『天国と地獄』でヴィーナスを演じたときには、色気のある雰囲気になるようヘアメイクを工夫。「猫の二重唱」では、ビールが大好きな酔っぱらい猫という設定に合わせてビール瓶の小道具を作り、本番ではチークで顔を真っ赤にしました。お寺で演奏したときには、会場の雰囲気に合わせて日本歌曲を歌うことになり、予定していたワンピースから振袖へ変更。ドレスに合うアクセサリーが見つからなければ、材料を買って自分で作ることもあります。作品に合わせたヴェールや髪飾りまで手作りするなど、衣装だけでなく、小物まで含めて舞台の世界をつくっています。

作品に合わせたヴェールや髪飾りを手作り

💭選ぶポイント
「自分自身の心が踊るか」

まず見るのは、その曲の雰囲気に合っているかどうか。そしてもうひとつ大切にしているのが、「自分自身の心が踊るか」。衣装を買うときも、「心が躍る一着に巡り会えるまで探しまくり、『運命の一着だ!』と思えるまで買いません!」というほど、納得できる一着を探します。

💭声楽ならでは
「華やかさ」も自分らしさ

衣装では、演奏する曲や役柄の雰囲気に合っているかに加えて、華やかさも大切にしています。サイズが合わなければ、自分の身体に合うよう縫って調整。また、客席に少しでも顔を見てもらいたいという思いから、本番では必ずおでこを出すヘアスタイルにしています。本番の日の持ち物も多いため、忘れ物を防ぐためのチェックリストを作って準備しています。

おでこを出すヘアスタイルがこだわり

DRESS DATA
手持ちの衣装 7着
本番バッグの中身 メイク道具、予備のつけまつ毛、鏡、パニエ、靴、コテ、ハンガー、アクセサリー、香水など
準備の工夫 持ち物はチェックリストで管理
次に挑戦したい衣装 マーメイドドレス
💭遠山さんにとって本番衣装とは?
「お守りのような存在。身にまとうだけで気持ちが高まり、緊張している時でも自信を与えてくれます」

DRESS FILE 09:
髙橋りささん
院2・声楽

💭この一着!
「女優魂」が燃え上がるピンクドレス

髙橋さんが紹介してくれたのは、海外輸入のピンクのドレス。肩と背中はベージュのネットのような透け感のある素材になっていて、スカート部分には布がたっぷりと使われています。この一着との出会いは、女優アドリアーナ・ルクヴルールのアリアを歌うためのドレスを探していたとき。ひと目見て気に入ったそうです。衣装に加えて、ヘアメイクやアクセサリーまで華やかにすると、さらに気分が上がります。「特にこのドレスは女優魂が燃え上がります」。

💭選ぶポイント
まず「役」を考える

髙橋さんは、役の年齢や性格、職業、作品の雰囲気から衣装を考えます。そのうえで、自分が美しく見える着こなしを研究。背が高いため、購入するときは丈を必ず確認します。通販の場合は、返品できるかどうかをチェックしてから購入しています。

💭声楽ならでは
呼吸できて、動いても美しい

声楽では、まずしっかり呼吸できることが大前提です。締め付けが強すぎる衣装は避け、オペラでは動きやすさも確認します。そして、ただ動きやすいだけではなく、「動いた時にも美しく見えるもの」を選ぶことも大切にしています。高いヒールを履くときは、コツコツという足音が鳴らないよう、ヒールの先にカバーをつける工夫も。役や衣装に合わせて、楽屋で履くスリッパを自分で作ることもあります。
DRESS DATA
手持ちの衣装 14着以上
よく利用するショップ オズデジュール/SHEIN/aliExpress
使いやすい一着 シワになりにくいシンプルなドレス
本番ルーティン ドレス用の下着にもこだわる
楽屋アイテム 役や衣装に合わせて楽屋スリッパを手作り
💭髙橋さんにとって本番衣装とは?
「人前に出てパフォーマンスする為の切り替えのスイッチです」

DRESS CHECK

専攻が変われば、「演奏しやすい」の意味も変わる。

9人のアンケート回答を見ていくと、同じ「演奏しやすい衣装」でも、その意味は専攻によってまったく違っていました。

ピアノでは、腕の動きや座った姿、ペダルと裾。
ヴァイオリンでは、楽器を構える肩まわり。
マリンバでは、舞台上を大きく移動できることや演奏する高さ。
クラリネットでは、息をしっかり吸えること。
声楽では、呼吸や動きやすさに加えて、役柄や作品の世界観をどう見せるか。
が衣装選びにつながっていました。

もちろん、衣装は機能だけで選ばれているわけではありません。自信をくれるもの。曲の世界へ入るもの。キャラクターを伝えるもの。気持ちを切り替えるもの。お守りや相棒のようなもの。本番衣装を見ていると、その人が舞台で何を大切にしているのかまで、少し見えてくる気がします。

次に演奏会へ行くときは、音楽と一緒に「どうしてこの衣装を選んだんだろう?」と、少しだけ衣装にも目を向けてみてください。
Text / 栗本幸音(ライティング・コミュニケーター)
Photo / 本人提供