ペルシア古典音楽の道 ― サントゥール奏者・岩崎和音さんの選択
同級生は全員イラン人、留学生も自分だけ。当時イランに暮らす日本人はわずか400人ほどだったといいます。西洋楽器が主流の音楽大学に身を置きながら、岩崎和音さん(作曲学科音楽学専攻2010年度卒)が惹かれたのはペルシアの古典楽器「サントゥール」でした。その音に導かれるまま単身イランへ渡って技を極め、いま日本でその音色を伝え続けています。心を動かされた音を追いかけ、自分の意志で道を切り拓いてきた岩崎さんに、その歩みを伺いました。
多様な音楽が学べる中、非西洋音楽へ
岩崎さんが本学で学んだのは、作曲学科音楽学専攻でした。演奏家としてではなく、「音楽文化を支える側の人間になれたらいいな」と漠然と考えていたそうです。しかし非西洋音楽を研究する教授との出会いをきっかけに、その関心は大きく動き出します。
「音大でクラシック音楽をやらなかったという意味では、かなりマイノリティな方だったと思います」と岩崎さんは当時を振り返ります。周囲の多くがピアノやヴァイオリンに向き合う中、岩崎さんの関心は西洋音楽の枠の外へと向かっていきました。
「音大でクラシック音楽をやらなかったという意味では、かなりマイノリティな方だったと思います」と岩崎さんは当時を振り返ります。周囲の多くがピアノやヴァイオリンに向き合う中、岩崎さんの関心は西洋音楽の枠の外へと向かっていきました。
一台の楽器が、その後の人生を変えた

サントゥール。台形の胴に張られた金属弦を、木製のバチで打って音を出す
当時の必修授業「民族音楽演奏演習」で偶然出会ったサントゥール。その響きを、岩崎さんはこう表現します。
「金属弦に木製のバチを当てると、澄んだ音が楽器の中で共鳴し、美しい余韻が残る。その余韻が次の打弦音と重なり、重層的で幻想的な音響になっていく」
YouTubeなどでどんな音楽でも容易に聴ける時代だからこそ、「生でこの音を聴けたということが大きい」とも付け加えます。この出会いが、後にイラン留学という決意へとつながっていきました。
「金属弦に木製のバチを当てると、澄んだ音が楽器の中で共鳴し、美しい余韻が残る。その余韻が次の打弦音と重なり、重層的で幻想的な音響になっていく」
YouTubeなどでどんな音楽でも容易に聴ける時代だからこそ、「生でこの音を聴けたということが大きい」とも付け加えます。この出会いが、後にイラン留学という決意へとつながっていきました。
会社員から一転、イラン留学への決断
卒業後は舞台音響会社に就職したものの、就職前に訪れたイラン旅行の記憶が消えず、半年で退社。イラン留学を決意します。周囲の反応は「そこまで本気なのか」という驚きと、「え?」と思わず聞き返すような困惑とが入り混じったものでした。それでも家族は、楽しげに語る岩崎さんの土産話から、その決意をすんなりと受け入れてくれたといいます。
学び舎テヘラン大学の中庭
2012年、テヘラン大学大学院へ。クラスメートは自分以外全員がイラン人という環境の中、ペルシア語はゼロからのスタートでした。
「ある時はこの表現はこう使うんだなとイラン人の隣で観察して覚え、また使ってみたらこのシーンでは使わないという失敗の繰り返し」だったと明かします。
渡航2か月ほど経った頃には、人間関係や言葉の不自由、家族や友人になかなか会えない寂しさが重なり、留学生活は次第にストレスの大きいものとなっていました。そんな中、「ペルシア語が分からず、授業の終わりに出された宿題の告知にすら気付けなかったという出来事は、今も忘れられない記憶です」と振り返ります。
強い挫折感を覚えたものの、授業を全部録音して家で再度勉強するなどの努力を重ねました。あの時踏ん張り続けたことが、後の5年間を乗り越える力になったといいます。
「ある時はこの表現はこう使うんだなとイラン人の隣で観察して覚え、また使ってみたらこのシーンでは使わないという失敗の繰り返し」だったと明かします。
渡航2か月ほど経った頃には、人間関係や言葉の不自由、家族や友人になかなか会えない寂しさが重なり、留学生活は次第にストレスの大きいものとなっていました。そんな中、「ペルシア語が分からず、授業の終わりに出された宿題の告知にすら気付けなかったという出来事は、今も忘れられない記憶です」と振り返ります。
強い挫折感を覚えたものの、授業を全部録音して家で再度勉強するなどの努力を重ねました。あの時踏ん張り続けたことが、後の5年間を乗り越える力になったといいます。

恩師(中央)、学友たちと
そんな岩崎さんを支えたのは、現地の人たちの温かさでした。
ある恩師には「私のことは師ではなく、友人だと思ってくれ」と声をかけられ、自宅に招かれることもあったといいます。異国での孤独が、こうした関わりの中で少しずつ和らいでいきました。
また「私たちの音楽を学んでくれてありがとう」と感謝されることも多く、外国人としてペルシア古典音楽に打ち込む岩崎さんに、先生たちは真剣に向き合ってくれました。
ある恩師には「私のことは師ではなく、友人だと思ってくれ」と声をかけられ、自宅に招かれることもあったといいます。異国での孤独が、こうした関わりの中で少しずつ和らいでいきました。
また「私たちの音楽を学んでくれてありがとう」と感謝されることも多く、外国人としてペルシア古典音楽に打ち込む岩崎さんに、先生たちは真剣に向き合ってくれました。

国内旅行で訪れたイラン第3の都市「イスファハン」にて
現地の雑誌に掲載された岩崎さんの紹介記事
帰国後、日本にこの音を届ける
5年間の留学を終えて帰国した岩崎さんは、渡航中から連絡を取り合っていたトンバク奏者・蔡怜雄氏とユニット「ケレシュメ」を結成します。「日本ではまだ響くことの少ないこの音を、共に奏でよう」という思いで一致しての船出でした。
奈良・法隆寺での「OTOBUTAI2024」をはじめ、多くの舞台を経験し、テレビ、映画、演劇など多方面の音楽制作にも参加。
「サントゥールの音色が様々な媒体で、多彩な奏者の響きと溶け合い、千変万化する楽器だなと感じています」と、その可能性に手応えを見せます。
奈良・法隆寺での「OTOBUTAI2024」をはじめ、多くの舞台を経験し、テレビ、映画、演劇など多方面の音楽制作にも参加。
「サントゥールの音色が様々な媒体で、多彩な奏者の響きと溶け合い、千変万化する楽器だなと感じています」と、その可能性に手応えを見せます。

ユニット「ケレシュメ」の演奏会

アニメ劇伴の録音の様子
「異国の音楽」の先にあるもの
サントゥール教室「パルディース」では、20代から80代まで約30人の生徒を指導しています。「自分がイランで壁にぶつかった経験を覚えているからこそ、生徒さんの目線に立って教えられる」と話す岩崎さん。
目指すのは、「異国の音楽」として消費されるだけでなく、「日本人の心に沁み、情緒に響くような音や旋律を創り出す」こと。そして進路に悩む後輩たちへは、こんな言葉を残してくれました。
「スマホを開けばコンテンツや音楽が溢れてくる時代だからこそ、『本物』『生』のものに触れる機会を大切にしてほしい。そこには、その文化を支えている側の人間の温かみがある」
「本物」「生」の音に触れて心を動かされた一人の学生が選んだ道の先で、その音は今も誰かの耳へと届き続けています。
目指すのは、「異国の音楽」として消費されるだけでなく、「日本人の心に沁み、情緒に響くような音や旋律を創り出す」こと。そして進路に悩む後輩たちへは、こんな言葉を残してくれました。
「スマホを開けばコンテンツや音楽が溢れてくる時代だからこそ、『本物』『生』のものに触れる機会を大切にしてほしい。そこには、その文化を支えている側の人間の温かみがある」
「本物」「生」の音に触れて心を動かされた一人の学生が選んだ道の先で、その音は今も誰かの耳へと届き続けています。

サントゥール教室「パルディース」で指導にあたる岩崎さん

岩崎和音(Kazune Iwasaki)
イラン・ペルシア古典音楽、サントゥール演奏家。1989年生まれ。大阪音楽大学作曲学科音楽学専攻卒業。イラン国立テヘラン大学院芸術学部音楽学科イラン伝統音楽演奏コース(サントゥール)修士課程修了。Dariush Talaei氏に古典的な音楽理論を、Kamkar兄弟にサントゥール演奏法を師事。テヘラン大学より最優秀国際学生賞受賞。日・イラン国交樹立90周年記念式典にて演奏。現在まで、テヘランや日本国内各地で演奏活動を行う。BSキャンパスon「中東の政治」(日本、2020年)、Manoto「Manoto Plus」(英国、2020年)、BSテレ東「おんがく交差点」(日本、2021年)、NHK World Radio Japan ペルシア語放送「Barg-e Sabz」(同)、VOA Farsi「Kaleskeh-ye Bahar」(アメリカ合衆国、2021年) などテレビ出演多数。映画「国宝」(李相日監督、2025年)、TVアニメ「天幕のジャードゥーガル」(サイエンスSARU、2026年)等の劇伴音楽制作に参加。サントゥールレッスン教室「パルディース Pardis」を主宰する。
イラン・ペルシア古典音楽、サントゥール演奏家。1989年生まれ。大阪音楽大学作曲学科音楽学専攻卒業。イラン国立テヘラン大学院芸術学部音楽学科イラン伝統音楽演奏コース(サントゥール)修士課程修了。Dariush Talaei氏に古典的な音楽理論を、Kamkar兄弟にサントゥール演奏法を師事。テヘラン大学より最優秀国際学生賞受賞。日・イラン国交樹立90周年記念式典にて演奏。現在まで、テヘランや日本国内各地で演奏活動を行う。BSキャンパスon「中東の政治」(日本、2020年)、Manoto「Manoto Plus」(英国、2020年)、BSテレ東「おんがく交差点」(日本、2021年)、NHK World Radio Japan ペルシア語放送「Barg-e Sabz」(同)、VOA Farsi「Kaleskeh-ye Bahar」(アメリカ合衆国、2021年) などテレビ出演多数。映画「国宝」(李相日監督、2025年)、TVアニメ「天幕のジャードゥーガル」(サイエンスSARU、2026年)等の劇伴音楽制作に参加。サントゥールレッスン教室「パルディース Pardis」を主宰する。










