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闘うピアニストに学ぶ「自己実現のセオリー」~ 番外編 ~


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さまざまな視点

国際的ピアニストとして多方面で活躍されている、大阪音楽大学准教授・赤松林太郎さんの連載。最終回目前の今回は【番外編】として、「効果的な練習方法」「緊張の克服方法」「クラシック離れは加速している?」という気になる3つのトピックスについてお聞きしました。

【番外編】気になる3つのトピックス


1. 効果的な練習方法

1ページ=5分の時間固定練習法


方法は1ページ=5分。スマホのタイマーを使います。どれだけ簡単でもどれだけ難しくても、同じ5分で練習します。5分という一定の時間のなかで価値だけが変わっていくということです。そして、この5分にどれだけの集中力をつぎ込めるかがポイント。これを繰り返すと、力を抜いていいところと集中しなければならないところがわかってきます。本番で過度に集中してしまうと、普段では起こり得ないミスにつながることもありますからね。


この方法を教えるとみんな驚きますが、なかにはすぐに試してくれる学生もいて、「5分ってこんなに短かったんですね」「5分ってこんなにできるんですね」と、その価値を実感してくれます。できないところを5分で克服できれば尚更です。

5分間練習は40分もやれば、ぐったり疲れ果てます。5分の重みがわかりますよ。

2. 緊張の克服方法

普段の練習から本番と同じ緊張感をつくる


演奏家は、緊張から絶対に解放されない職業です。何かをするときに緊張しない人間は、怠慢だと思います。緊張というのは用意のシグナル。それを乗り越えるには自信をもつしかありません。自信がないのは、研鑽が足りないということ。本番の緊張を和らげたいなら、失敗したくないなら、練習あるのみです。そして成功体験を積み重ねていくことだけが、唯一の克服方法だと考えます。


ですが、経験値をどれだけ積み重ねても、緊張するときはするものです。僕だっていまだに緊張します。大切なのは練習のときから同じ緊張感をつくること。そのためには録画するとよいでしょう。録っていると、失敗したらどうしようと思うから変に緊張するんですよね。そして録画したものは、その日にすべて見直します。今日のフォームや指の使い方、身体の動かし方はどうだったか。なぜここでミスしたのか。すべてセルフチェックして、課題を一つずつ潰していけば、失敗する確率が減り、緊張の克服に近づきます。

まずは本番までのプランニングを


譜面を手にしたら、まずは本番までのマッピングをして、どう進めば辿り着けるかというプランを組み立てるようにしています。とても建設的な作業です。やみくもに練習すると、意外なところで時間を浪費してしまうおそれがありますし、「気づいたらできていた」と無計画で無自覚なのは、本番の失敗の原因にもなるでしょう。計画的に自覚をもって達成できていれば、当日の緊張感がプラスに作用し、ほどよい高揚感にもつながります。その結果、演奏にしっかり集中できたり、本番でしか出せないような記録を出せたりもする。その一瞬の奇跡を生むためには欠かせない作業です。

3. クラシック離れは加速している?

クラシックは日本ではそもそも定着していない


「クラシック音楽離れ」を案じる声を耳にすることがありますが、そもそも日本においては流行っているジャンルではありませんよね。もともと定着していないので、離れるも何もないと思います。ファンの高齢化が進んでいるとも言われていますが、かてぃん(角野隼斗さん)やソリ(反田恭平さん)、亀井くん(亀井聖矢さん)のコンサートは、若いお客さんのほうが多い。しかも、若手演奏家は積極的に動画配信も行っていて、それを観ている人たちは「コンサートに行ったら生に会える、生の音が聴ける、やっぱりすごい」となるのです。

小さなブームの伸び縮みは続いていく


YouTubeで配信されたショパンコンクール*の再生回数もすごいですよね。要は、そういう人材がいるかどうか。今挙げた人たちも、日本全体で見たら知らない人が大多数です。結局は小さなブームの伸び縮みだけだから、クラシックというものを真剣に見つめ、真剣に表現していく人が続けばいいだけです。あるときビッグバンのように大きくなるかもしれませんが、やがて収縮して、また次の世代が出てくる。このように伸び縮みが続く歴史は変わらないと思います。

*)「ショパン国際ピアノコンクール」のこと

「第18回ショパン国際ピアノコンクール」で第2位を受賞した反田恭平さんのファイナルラウンドの動画再生回数は500万回を超えている
(YouTubeチャンネル「Chopin Institute」より)
Interview&Text/三浦彩
Photo/本人提供


赤松林太郎(Rintaro Akamatsu)
世界的音楽評論家ヨアヒム・カイザーにドイツ国営第2テレビにて「聡明かつ才能がある」と評され、マルタ・アルゲリッチやネルソン・フレイレから称賛された2000年のクララ・シューマン国際ピアノコンクール受賞がきっかけとなり、本格的にピアニストとして活動を始める。
1978年大分に生まれ、2歳よりピアノとヴァイオリンを、6歳よりチェロを始める。幼少より活動を始め、5歳の時に小曽根実氏や芥川也寸志氏の進行でテレビ出演。10歳の時には自作カデンツァでモーツァルトの協奏曲を演奏。1990年全日本学生音楽コンクールで優勝。神戸大学を卒業後、パリ・エコール・ノルマル音楽院にてピアノ・室内楽共に高等演奏家課程ディプロムを審査員満場一致で取得(室内楽は全審査員満点による)、国際コンクールでの受賞は10以上に及ぶ。
国内はもとよりアジアやヨーロッパでの公演も多く、2016年よりハンガリーのダヌビア・タレンツ国際音楽コンクールでは審査委員長を務め、ヨーロッパ各国で国際コンクールやマスタークラスに度々招かれている。キングインターナショナルよりアルバムを次々リリースする一方、新聞や雑誌への執筆・連載も多く、エッセイや教則本を多数出版。メディアへの出演も多い。
現職は、大阪音楽大学准教授、洗足学園音楽大学客員教授、宇都宮短期大学客員教授、Budapest International Piano Masterclass音楽監督、Japan Liszt Piano Academy音楽監督、カシオ計算機株式会社アンバサダー。