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連載【セルフプロデュース】注目の若手ピアニスト・山縣美季が「学生のうちにしてきたこと」


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さまざまな視点
今春本学でスタートしたのは、全国でもめずらしい「演奏領域におけるセルフプロデュース」を学べる特別講義。各界のトップランナーから、自分の表現をしっかりと周りの人に伝えていくためのノウハウを学んでいます。6月11日は東京藝術大学4年生でピアニストの山縣美季さんをお迎えし、ナビゲーター役の大阪音楽大学准教授・赤松林太郎さんが「私が学生のうちにしてきたこと」をテーマにお話を伺いました。
- Topics -

音楽家は音楽への「愛」を共有できる尊い職業

私の音楽を全身全霊でお届けする

赤松:私が山縣さんに注目するきっかけになったのは、2020年のピティナ・ピアノコンペティションの特級ファイナルでした。コロナ禍だったこともあり、インターネット経由で視聴していたのですが、山縣さんにショパンが憑依しているんじゃないか?と思うぐらいの表現力と奥行きに魅了されました。同じ年には日本音楽コンクールのピアノ部門で第1位も受賞しましたね。それからの3年間で環境面や心理面などの変化はありましたか?

山縣美季さん

山縣:2020年を境にコンサートで演奏させていただく機会が急激に増えて、目の前のことをこなすだけで必死だった時期がありました。精神的にも肉体的にも消耗し、当時は葛藤を抱えながら毎日を過ごしていました。

半年ほどたったころ、他の音楽家が演奏後に「今日の反省点はたくさんありますが」と話していたり、コンサートの告知で「まだまだ未熟ですが聴きに来てください」と書いていたりすることに違和感を覚えるようになってきました。それまで私自身も同じようなことを言ってしまっていたんですけど、ソリストとして舞台に立たせていただくようになってからそうした言動が無責任だと感じるようになってきたんです。私の演奏を聴きに来てくださる方がいるからには「私の音楽を全身全霊でお届けする」という、ピアニストとしての姿勢や覚悟がそのときに固まったように思います。
赤松:コロナ禍で「音楽は不要不急」って言われ続けましたが、その中でも、あえて私たちは音楽を演奏し続けました。世の中にたくさんの職業がある中で、ピアニストであることの強みはどこにあると思いますか。

山縣美季さんと赤松林太郎さん

山縣:ピアニストに限らず、音楽家は音楽によって人の心にダイレクトにアプローチできる仕事です。私自身も音楽に救われた一人ですし、同じように思ってくださる方はたくさんいます。たとえ不要不急だと言われても、音楽の素晴らしさを伝え、音楽への愛を共有できる尊い職業だと思います。
赤松:今、「愛」というフレーズが出ましたが、山縣さんの演奏を聴いていると、まさに作品に対する揺るがない「愛」を感じます。多忙な日々の中で作品とどう向き合って、何を引き出そうとしていますか?
山縣:好きでないと曲の魅力を伝えることはできないと考え、私自身が作品のどこに惹かれているのか、とにかく楽譜と向き合って徹底的に考えるようにしています。レッスンの空きコマを譜読みに充てることもあり、練習中でも(譜面を読み込んで)音を出していない時間がたくさんあったりします。

SNSでは、ありのままの自分を表現

好きなことを素直に発信する

赤松:山縣さんとお会いする機会はそれほど多くありませんが、Instagramはこまめにチェックしていて、日々の音楽との向き合い方を感じ取っています。
山縣:Instagramを始めたのは、日本音楽コンクールで優勝した時期ですね。最初は「何か投稿しなきゃ」「フォロワーを増やさなきゃ」ということに必死で、負担に感じたこともありました。今は、音楽のことはもちろん、元々大好きだったドレスも「ちょっとコレ見て!かわいくない!?」みたいなテンションで、シンプルに「伝えたい」「載せたい」ことを投稿するようになってからはすごく気が楽になりました。今では「Instagramを見ています」「ドレスの写真がすてきです」と言ってくださる方も増えてきて、自分らしさを出せるようになってきたかなと思っています。

山縣美季さんと赤松林太郎さん

赤松:SNSはセルフプロデュースのツールとして有効である一方、特に若年層では匿名性ゆえの無責任な言動なども問題視されますよね。山縣さんのSNSは品があって清々しい気分になるんですけど、特別に気を付けていることはありますか。
山縣:「ポジティブに」と意識しているわけではなく、毎日清々しく生きているわけでもないんです(笑)。結局は自分の心に無理がないようにするということに全部つながっているのかもしれないですね。時にはネガティブなことを書いていることもあると思うんですけど、等身大の自分を素直に表現するだけでも「きっとどうにかなるよ」という自分の声が表れているのかなと感じます。

コンサートのドレス選びも、表現の一部

赤松:SNSって常に“さらされて”いますよね。常に見られている、何かを求められているという状況はこれからの時代の怖さであり、芸術者や表現者としての悩みのタネにもなってくるのではないかと思います。
山縣:「人の目」は常に感じていますし、「私に求められていること」が分からなくて怖くなった時期もありました。でも、よくよく考えてみたら、私に求められていることは私がやりたいことと一致していると気づいて。それからは自分のやりたいことを私らしくやっていればいいんだ、と思えるようになり、不安や怖さをあまり感じなくなってきました。
赤松:先ほどお話しにあったInstagramでは、特にドレスの写真に「いいね」がたくさんついている印象です。コンサートのドレス選びで意識していることはありますか。
山縣:プログラムとのシンクロというのか、自分が持つ作品のイメージを共有するための道具であり、表現の一部だと思っています。ドレスは客席から私を見たときに目に入ってくる一つの“情報”です。表現の一部として音楽を助けてくれるものになったらいいなと思って選んでいます。
Navigator&Interview/赤松林太郎
text/野田直樹(高速オフセット)

山縣 美季
2002年生まれ。第89回日本音楽コンクールピアノ部門第1位及び野村賞、井口賞、河合賞、三宅賞、アルゲリッチ芸術振興財団賞受賞。第44回ピティナ・ピアノコンペティション特級ファイナル入選。かながわ音楽コンクールでユースピアノ部門とピアノ部門の両方でコンクール史上初の同年二冠(どちらも最優秀賞)を果たす。第2回ノアンコンクール第1位、ノアン賞受賞。フランス・ノアンにてノアンフェスティバルショパンに出演。これまでシレジア・フィルハーモニー管弦楽団、プリマヴィスタ弦楽四重奏団、神奈川フィルハー モニー管弦楽団、東京交響楽団、東京フィルハーモニー交響楽団などと共演。NHK Eテレ「クラシック音楽館」、NHK FM「リサイタル・パッシオ」に出演。東京藝術大学音楽学部附属音楽高等学校を経て、現在東京藝術大学宗次德二特待奨学生として東京藝術大学4年に在学中。2022年シャネル・ピグマリオン・デイズ参加アーティスト。2022年度 ロームミュージックファン デーション奨学生。東誠三、日比谷友妃子の両氏に師事。