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【特別講義】作品に命を宿す作曲家・宮川彬良が語る「音楽とは」


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さまざまな視点

「音楽って、何すか?」ー。中学生の素朴ながら大変難しい問いかけに、作曲家の宮川彬良さん(本学客員教授)はこう答えました。「命を表現することが芸術の使命であり、その芸術の中の真髄が音楽なわけだから、要約すると『音楽は命だ』ってことになる」。この回答に行きついた経緯を紐解き、その真意を語る特別講義が在学生を対象に行われました。
授業の前半には宮川さんが学生からのあらゆる質問に、時にはピアノの演奏も交えて音楽的なアプローチで答えを導き出していきました。

初めに「夢の中でも曲をつくっているのが作曲家。僕は歌をつくるのがすごく好きで、日本語の言葉が音楽に聴こえたり音楽が言葉に聴こえたりします。その中間を彷徨っているのが僕の日常です」と自己紹介し、ピアノに向かって、学生に配られた自身の経歴文章を即興で弾き語りしました。

さらに、コンサートでよく弾く童謡「サッちゃん」を演奏。「引越しの曲だと思っていると思いますが、二度と会えない場所に向かって、あるいはいつか自分もそこに行くのかという距離感で、ゴスペル風に」と独自の解釈でのアレンジを披露しました。
曲を解釈することの重要性は授業の後半で深く語られます。

学生からの質問は事前に募り、それを見た宮川さんは「みんな気になる質問をしてくれていて、本質に迫ろうとしているんだなと感じてすごくうれしかった」と言います。そして、一つ一つ丁寧に回答していきました。その一部を紹介します。
質問:いろんな仕事をされているがメインやサブという意識はありますか?

宮川:仕事の大半は作曲や編曲、それと演奏。作曲や編曲の時は家の地下室にこもって一日中ピアノと机と行ったり来たりしながらやっています。非常に不健康かもしれない。一方演奏は、レパートリーが300~400曲あるので通常指揮者は演奏会の1ヶ月前からスコアを見ますが、僕にはその作業がほとんどない。自己流で集積していって今だいぶ蓄積があると思う。ところが演奏の時もトニックとドミナント、つまり1度と5度で出来ている音楽を作ったり分析したりしていて、指揮者の人とはアプローチが違う。つまり、作曲や編曲も演奏もやっていることは違うが、感じていることややるべきことは同じだと思います。
質問:後世に残る音楽と残らない音楽の違いはなんですか。

宮川:後世に残る音楽はたぶん、シンプルな音楽。作曲した『マツケンサンバII』がもてはやされて、おかげで印税が入ってきて申し訳ないくらいだけど、後世に残るかというのは分からない。サイクルがどんどん早くなっていて、若い人は10年前のことを昔ねっていう。いろんな尺度によって違うが、モーツアルトくらいはいきたいよね。それでも高々300年くらい。60年生きているこの感覚を5回、一人では無理だけど協力すればできるかな。つまり意外と歴史は近いってこと。300年もそんなに昔じゃないってこと。本当の後世を僕も知りたいしみんなも考えてほしい。

質問:本物の音楽という言葉が使われますが、本物の音楽って何なんでしょうか?

宮川:すごい深い質問だなと思います。一つ思い起こしたのは「空気」。オーケストラでギタリストがポロンって弾いた時、音が見えた感じがした。空気の中にその響きが交わっているというか、空気が、見えないものが、見えた瞬間があった。もしかしたら一番本物に近い体験だったと思う。でも今はその空気を、割愛するじゃない。できたものをメールで送り、受け取った人はそれを開いて聴く。息遣いや、音が空気を介在して届く伝達というものが、本物を語る上で重要じゃないかなと思います。

質問:音楽文化の地方と都市の差は?

宮川:確かに地方と都市では差がありますが、それは音楽文明かもしれない。音楽文化と文明は違うんだということを時々意識させられると思う。ドミナントはトニックに解決したいよね、というのは文化。舞台上演が地方ではあまりないのは文明。みんなが落差を感じるのは、文化の落差ではなく文明の落差なのではと感じています。


質問:一番幸せを感じるのはどのような時ですか?

宮川:指揮や演奏をしている時に、こういうふうに言ったらこういうふうに音が変わったということを目の当たりにする。みんなでなければできない構造物が自然に動き出す瞬間がものすごく幸せで愉快で気持ちが良くて満足する瞬間です。


質問:音楽活動をしている若い人にどんなアドバイスがありますか?

宮川:皆さんはおそらく、正しいことを正しいと思っていませんか?真理は一つと科学も実証するから、正しいことが正しいと思ってしまう。それは演奏の時にちょっとやっかいで、それを超越しなければならない。世の中を一歩リードしたものが音楽。音楽の上では「正しいことが正しい」のではなく、「楽しいことが正しい」。名言だよね(笑)。何が正しいかという物差しを当てがっちゃっている時は僕にもある。その時にこの言葉を思い出します。


質問:音楽は本当に平和をもたらすのですか?

宮川:ベートーベンの「悲愴ソナタ」はソプラノ、アルト、テナー、バス、それぞれメロディーですが、瞬間瞬間縦に切っても一箇所もコードが乱れていない。各パートが自由にやってもぶつかっていない。調和しているのです。自由と調和が両方あるものが音楽以外にもあったら教えてください。
 音楽はじっくりと作ると、自由と調和は両方同じ瞬間に成立するということを世の中にもっと知ってほしいと思います。自由と調和が平和をつくります。それは音楽にしか成し得ない、社会の、世界の、宇宙の見本。やればできるということをもうちょっと考えてみようと問うために、いつか平和音楽祭をやりたいと思っています。


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