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【特別講義】作品に命を宿す作曲家・宮川彬良が語る「音楽とは」


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さまざまな視点

「音楽って、何すか?」ー。中学生の素朴ながら大変難しい問いかけに、作曲家の宮川彬良さん(本学客員教授)はこう答えました。「命を表現することが芸術の使命であり、その芸術の中の真髄が音楽なわけだから、要約すると『音楽は命だ』ってことになる」。この回答に行きついた経緯を紐解き、その真意を語る特別講義が在学生を対象に行われました。
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「音楽」を考える

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授業の後半は、宮川さんが出演したテレビ番組「クインテット」について映像や著書を交えて話を進めていきました。そして「音楽は命」と悟った経緯、座右の銘「自分は自然の分身」について語ります。

長寿番組の制作

宮川さんが出演したNHK教育テレビ「クインテット」の一場面
(画像クリックでNHKアーカイブス「クインテット」へリンク)

解釈した先に命が輝く

「クインテット」は2003年4月7日から2013年3月30日までNHK教育テレビで放送された、子ども向け音楽教養番組。放送開始に至るまで約1年間の議論を要したといいます。そして、宮川さん扮する謎のピアニスト「アキラさん」を含む5人のキャラクターは音楽家の霊、魂という設定で、人間と人形の掛け合いによるトークと音楽ショーで構成されることになりました。

「どんな台本や脚本をもらっても、解釈が必要。解釈した向こうに、命が見え隠れすると音楽の仕事はうまくいきます。なぜなのかは分からないが、解釈した先に命が輝いて、そっちの方を見ると音楽の神様が微笑むんです。霊魂という設定を思いついたからこそ、クインテットの一人一人の命が輝き始めました」

命はどこにあるか

続いて、童謡「赤とんぼ」を例に挙げます。
「歌詞を分析していくと、ぬくもりの歌だと僕は解釈した。命の温かさに向かって解釈を進めると、こういうふうに演奏したいなというのが見えてきます」

「シャボン玉」は「命の歌」だといいます。
「シャボン玉の玉は魂。目に見えるものが見えないものになった瞬間、シャボン玉が消える瞬間。魂の歌だなと思うとゆっくり演奏したくなります」

「曲を解釈することで音楽に命が宿る」ことをピアノで伝える宮川さん

「すべてのものの本質は命である。そう舵を取ると音楽が始まります。僕がクインテットを作った中での大発見です」
今も、「『命はどこにあるんだ』と自問自答して音楽を作っている」と言います。

自分とは、音楽とは

宝物となった言葉

宮川さんは東京芸術大学に入学するも、「あんなに苦労して入ったのに、ほとんど学校に行かなかった」そうです。しかし、そこで「宝物と思える言葉」に出会います。
同大学で野口三千三さん(野口体操創始者、東京芸術大学名誉教授、1998年逝去)の授業に参加した時です。
「黒板を持ってきて、漢字の勉強をしよう」と。そして、

自 然
分 身


と野口さんは書きました。さらにムチを振ったりチェロを弾いたりして、「物理学が自然の原則そのもの」だと説く姿を見て「物理こそ音楽の一つの側面の正体ということが分かってほっとした」そうです。
「つまり、日本にいてもパリ音楽院に行ってもアメリカのミシシッピ川にいても、物は下に落ちる。重力とお友達になっていれば世界中の共通語がここにあるという気がした。あらゆる局面で、『然』の『身』は『自分』という言葉が僕の宝物になりました」

当時20歳だった宮川さんは「留学もしないで西洋音楽を?と自問自答していた毎日だった」そうですが、この教えが「それに終止符を打った」と振り返ります。

それからの座右の銘は、「“自分”とは“自然”の“分身”である」。

「今日はこれを伝えたかった。抽象的な概念を多分に含んでいるのでピンと来なかった部分もあると思いますが、はっきり分からなかったことの多くは後で、自分の体験が組み合わさって分かっていく。いちおう玉を投げたから、それがまた違う形で花を咲かせてくれたら」と期待を寄せました。

目に見えないものこそ大事

最後に、どう音楽に向き合っているか、言葉を重ねました。

「音楽家の役割は目に見えないものこそ大事なんだということを世界に知らしめていくこと。目に見えない音楽は抽象的だから隅に追いやられているけれども、大変重要で大切なものです。世界のどこにいても公平で、刺激を与えたり人生の指針になるようなことを教えてくれたりする。そう思って僕は活動しています」

熱心に聞き入っていた学生たちは、大きく、何度も、うなずいていました。

Text / 齋藤架奈枝

宮川 彬良
作曲家/1961年東京都出身
劇団四季、東京ディズニーランドなどのショーの音楽で作曲家デビュー。その後数多くのミュージカル・舞台音楽を手掛ける。代表作に「身毒丸」(読売演劇大賞優秀スタッフ賞受賞)、「ミラクル」(東京芸術劇場ミュージカル月間優秀賞受賞)、「ハムレット」(読売演劇大賞優秀スタッフ賞受賞)、「天保十二年のシェイクスピア」(読売演劇大賞優秀スタッフ賞受賞)、「ONE MAN'S DREAM」「DOROTHY~オズの魔法使い~」など。また、ショーのために作曲した「マツケンサンバII」 が大ブレイク、舞台音楽からヒット曲を送り出した。NHK Eテレ「クインテット」 BS2「どれみふぁワンダーランド」 BSプレミアム「宮川彬良のショータイム」で音楽を担当し自身も出演。アニメ「星のカービィ」「宇宙戦艦ヤマト2199/2202」、NHK木曜時代劇「ちかえもん」 連続テレビ小説「ひよっこ」 特集ドラマ「アイドル」 の音楽、「第68回紅白歌合戦」 のオープニングテーマ、オーケストラ曲「風のオリヴァストロ」「シンフォニック・マンボ. No.5」 など活動は幅広い。また『コンサートはショーである』を信条に各地で精力的に演奏活動を行っている。2022年 エッセイ集“「アキラさん」は音楽を楽しむ天才”(NHK出版)を上梓。大阪音楽大学客員教授。