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【下村陽子】“落ちこぼれ”からヒットメーカーへ ゲーム音楽と共に歩んだ作曲家人生


© OSAMU NAKAMURA

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仕事図鑑
音楽に携わる人をクローズアップする「仕事図鑑」。
今回のゲストは「ストリートファイターⅡ」や「キングダム ハーツ」「ファイナルファンタジーXV」など、人気ゲームの音楽を数多く手掛けてきた作曲家の下村陽子さん。11月17日発売の「スーパーマリオRPG」でも、1996年発売の第1作に続き音楽制作に携わられました。今年で作曲家生活35年を迎えた下村さんに、音楽との出会いから、売れっ子ゲーム音楽家になるまでの経緯や、これからゲーム音楽制作を目指す人へのアドバイスを伺いました。
- Topics -

求められるのはきらりと光るセンスと、屈強な精神力

――曲作りで心掛けていることを教えてください。

「曲が飽きない」ということが前提になりますが、自分自身が一人のプレーヤーだと考えて「目立ち過ぎない」ことも意識しています。あくまでも音楽はゲームを構成するパーツの一つ。プレーが終わった後に、「そういえばあの曲よかったな」と思い出してもらえるぐらいの温度感の曲になればということをいつも意識しています。

私はよく「聞こえてくる」と表現するのですが、全然手元にパソコンがないときに「ふっ」と頭の中で鳴ったりすることがあります。
フリーになってから複数のタイトルが同時進行していることが多くなり、急がなければいけない作品とは違う作品の曲が聞こえてくることや「ボス曲の締め切りが明日なのにどうしてフィールドの曲がこんなに出てくるんだろう」みたいなこともよくあります。

人からは「そこをコントロールするのがプロだ」と言われますが、全然コントロールできなくて「いつ出てくるか分からないんですよね」と、発注者が困る返答しかできないんです(笑)。

MIDIを外付けしているヤマハのヴィンテージピアノ。下村さんの作曲に欠かせないメイン機材

――サウンドクリエーターに求められる条件、スキルにはどのようなことがあるでしょうか?

大前提として、技術的な面では、仕事のスピードとクオリティーのバランスが大事です。
そこをしっかり鍛えた上でさらに一つ抜けていくためには、人と違う魅力的な個性、センス。きらりと光るもの。「この人に仕事を頼んでみたい」と思わせる何かを見つけてほしいと思います。

それと、けっこう心折れることが多い仕事です。そもそも折れないか、折れてもそこからすぐに立ち直れる屈強な精神力は頑張って磨いてほしいなと思います。


――精神力を鍛えるためにはどうすればいいでしょうか?

作曲という点では、作った作品に対してフラットかつ的確にアドバイスしてくれる人が近くにいるといいと思います。友だち同士でもいいし、先生と生徒という関係でもいい。自分では「傑作だ」と思っていても、他人から厳しい評価を受けたときに「じゃあ、どうすればいいのか」「次にどうするか」を考える力。優しいだけ、褒めてくれるだけだとなかなか伸びないと思います。

年をとってしまうと頭が固くなってしまうので、若い頃からアドバイスしてもらえる環境に身を置くことが大事だと思います。来たるべきチャンスのために、作品のクオリティーを高めていけるかは周りの環境を大事にして、その中でつかみ取れるかどうかだと思います。そうした人が周囲にいなければ、コンペやコンクールにチャレンジしてみてもいいですね。

とにかく、若い頃に数を撃ってたたかれておくことが大事。チャンスをつかむためにも大事だし、ダメだったときに何がダメかを考えたりする力ってすごく大事だと思います。
――11月17日にスーパーマリオPRGのNintendo SwitchTM版が発売されました。原作の1996年版も音楽で携わっておられましたね?

96年版の制作段階ではまだスクウェアの社員でしたが、あの有名なメロディーを私がアレンジしていいのかという恐れ多い気持ちと、スーパーマリオの名に恥じないように、皆さんに楽しんで聞いていただける曲にしたいという思いは最初から強く持っていました。プレッシャーもありましたけど、若かったからか喜びの方が強かったことを覚えています。世界的に有名な「スーパーマリオ」を私なんかがやっていいの? めっちゃラッキーと思っていました。

当時はスーパーファミコン用のソフトだったので、全て内蔵音源で楽器の音をサンプリングして鳴らすという手法でした。今回のNintendo Switch版はレコーディングした音源がそのままソフトに入っています。前作と比較して、ゲームの内容と共に音楽面でもハードの進化を如実に感じられるかもしれません。

ただ、原曲は96年版と同じです。ベースの部分を変えてしまっては原作のファンには受け入れてもらえません。「スーパーマリオRPG」の世界観、印象は変わらないように心掛けています。
© Nintendo/SQUARE ENIX
Characters: © Nintendo, © SQUARE ENIX

大好きな音楽に出会い、共に歩めた喜び

――今年で作曲家生活35年を迎えられました。ゲーム音楽とご自身のこれまでを振り返ってみてどのように感じますか?

私がカプコンに就職を決めた頃、周囲の人に話しても「ゲーム音楽ってあの『ピコピコ』いうヤツ?」といった程度の反応でした。
35年たった今、『ドラゴンクエスト』『ファイナルファンタジー』『キングダム ハーツ』など、オーケストラによるコンサートが開催されるようになり、私も担当作品が演奏される時には作曲者として海外のコンサートに呼んでいただける機会が増えました。

ゲーム音楽をオーケストラで演奏するなんて、35年前には夢にも思っていなかったこと。ゲーム音楽が世間に注目していただいて、認知度が上がった。一つのカテゴリーとして確立されたと感じています。

最近は、昔作ったゲームで遊んだ若い人たちがプロの演奏者となってレコーディングに参加してくれることも増えてきました。国を超えた横の広がりから、世代を超えた縦の広がりへ。全方位的な広がりも感じています。

私自身のこれまでを振り返ると、音楽に出会えたこと、そしてこんなに音楽が好きになれたことに喜びを感じています。人生の辛いときを支えてくれたのは音楽ですし、ゲームが好きで、音楽も好きで、さらに作曲する喜びもあって、非常に恵まれた音楽人生を送らせていただいているなと感じています。


――40年目、50年目に向けて、これからの目標や展望を教えてください。

「こういう曲を作りたい」と能動的に動くタイプではなく、「こういう曲を作ってほしい」と求められて作ることに喜びを感じるタイプだと自己分析しています。

最近ではゲーム音楽にとどまらず、2019年のラグビーワールドカップの曲※3やプロレス団体のテーマソングなどスポーツ関連の作曲もしました。これらは「RPGのバトルのような、テンションが上がる曲がほしい」というオファーでした。ゲームで培ったノウハウがリアルに反映された気がします。

スポーツで言えば、フィギュアスケートも大好きです。フィギュアスケートと音楽は、切り離すことができないもの。一作曲家、一フィギュアスケートファンとして、ぎゅっと凝縮したドラマのような世界を書き下ろしで作ってみたいという夢があります。

今後もいろいろな人から今まで書いていなかったジャンルも含めて、「こういう曲を書いてほしい」と望まれて、喜んでいただけるような曲作りの姿勢。心のキャッチボールを楽しく臨んでいけたらと思っています。
※ Nintendo Switchは任天堂の商標です。
※1)「ストリートファイター」「ロックマン」「バイオハザード」「モンスターハンター」各シリーズ等を制作しているゲームソフトメーカー
※2)「ファイナルファンタジーシリーズ」などRPGやアドベンチャーゲームを主に制作していたゲームソフトメーカー。現スクウェア・エニックス
※3)選手入場曲「暁に咲く - Blooming in the Dawn -」
Interview&Text / 野田直樹(高速オフセット)
Photo / 中村治(一部本人提供)

下村陽子(しもむらようこ)
大阪音楽大学短期大学部 音楽科 器楽専攻卒。株式会社カプコンに入社後、ゲームのBGM、効果音製作を担当。1993年に株式会社カプコン退社、同年に株式会社スクウェア(現 株式会社スクウェア・エニックス)入社。主にゲームのBGM製作を担当。2002年に株式会社スクウェア退社。2003年よりフリーの作・編曲家として活動中。