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「発見から紡いだ音楽の世界」(森本友紀)


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コラム
筆者/森本友紀(大阪音楽大学・大阪音楽大学短期大学部 学長/作曲家)
私自身が紡いで来た音楽の世界。それは「発見」と、その連鎖で時を重ねて来たように思います。

当時、大阪音楽大学大学院作曲研究室で勉強中だった私は、西洋音楽に造詣を深める毎日を送っていました。そんなある日、ふと訪れた南禅寺薪能との出会いで、能楽の世界を知る事になります。かがり火の中に浮かび上がる幻想的な仕舞、木々にこだまする地謡、その全てに酔いしれました。

そして、能楽のメカニズムを知りたくなり、宝生流の師匠の元に駆け込んで、毎週、謡の稽古に通いました。同時に、西洋音楽での特殊唱法であるシュプレヒシュティンメの研究に没頭していた私は、日本音楽の中にも新しい唱法のヒントを「発見」し、一人でワクワクしたものです。

大学院時代の森本友紀学長(左端)

そこで、自分の中での「発見」を体現した曲を書きました。題名は「直面(ひためん)」。「ひためん」とは何とも意味合いが奥深く、能の世界で面をつけない事を意味します。世阿弥は、生身の顔もまた1枚の面であり、「これまた大事なり」と言っています。

さて、「ひためん」の楽器編成は、ソプラノとバリトン、そして室内アンサンブルでしたが、この曲の演奏を聴いてくださったアメリカ人ピアニストが、是非N.Y.州BROCKPORT大学で演奏して欲しい、と仰っていただき、渡米する事になりました。そして向こうの大学で、日本音楽や日本歌曲のアナリーゼの授業も担当する事になったわけですが、ある日、この曲を聴いたダンサーが、動きをつけてみたいと提案してくださり、私の曲はFOR DANCEへと変化して行きました。その時私は、人間の身体の動きの美しさに魅了されて、「音楽と動き」の融合に、新しい挑戦をする事になるのです。

余談になるのですが、この曲のクラリネット奏者であるアメリカ人に、なかなか日本音楽の奏法のニュアンスが伝わらず、苦労しました。作曲の書法のこだわりとして、あくまで西洋音楽の語法で、日本音楽のマテリアルを用いたかったからです。

演奏依頼を受けて渡米した頃

「音楽と動き」の融合に出会った私は、動きに伴った種々の音楽に挑戦を続けるのでした。モダンダンス、舞踏、バレエ、新体操、卓球強化選手の為の音楽まで書く事になったのです。

どの分野においても身体の動きは刺激的で、そのために音楽を作る過程が楽しくてたまりませんでした。そしてこの頃から、求められているものを具現化する事に対して、自分自身の中で音楽ジャンルがボーダレスになっていったのだと思います。

「音楽と動き」の融合に挑戦しはじめた

今度はある舞台を観て、ミュージカルの魅力を知るきっかけとなりました。ウエストサイドストーリーをはじめ有名な作品の数々を、電子オルガンで編曲演奏させていただく機会に恵まれ、その後ミュージカル作品をいくつか書くようになりました。それに伴って、ストーリーに沿った音楽やBGMなど、劇伴音楽も沢山手がけるようになりました。

特に、次の2作品は印象に残っています。
  • 寝屋のはちかづき
寝屋川市に伝わる民話を題材にしたオリジナル脚本に、全32曲を作曲させて頂きました。一般公演に加え、市内全小学4年生をお招きしての公演は、市にとっての大事業で、作品は5年間のロングランで、大勢の方々にお楽しみ頂きました。
ミュージカル「寝屋のはちかづき」
(寝屋川市公式チャンネルより)
  • 邪馬台国の風
宝塚歌劇団大劇場花組公演の演目で、テーマ音楽はじめ、様々なシーンの音楽を担当させて頂き、明日海りおさんの凛とした動きの美しさに音楽が絡んだ瞬間は感動的でした。

2017年公演「邪馬台国の風」
パンフレット表紙

そして今、私は時間を見つけてはピアノ曲を書いています。自分自身の原点に戻り、幼い頃から真摯に向かい合って来たピアノという楽器から、新しいメッセージを見つけようとしています。

最近、「False film」というピアノ曲を作曲しました。その時のプログラムノートを付け添えさせてください。演奏は矢崎真理氏です。

False film

「表現」とは現実と虚構の間に成立するものではないか、と考えながら作曲しています。
つまり芸術の本質とは、非常に微妙で複雑な、現実と虚構の接点にあるわけです。
この考えは、江戸時代の浄瑠璃作者・近松門左衛門が説いた芸術論であると伝えられています。

「表現」とは、全てが真実で構成されているわけでなく、「表現者」の意図が入り込み、工夫が施される事になり、その絶妙なバランスの上に成り立っているものが芸術だとしたら、現実と虚構の間を行来するところに、本来の美しさがあるような気がします。

人間も然り。
虚実皮膜の世界で演じて、毎日を過ごしているのかも知れません。

私の「発見」は、まだまだ続いていくのです。これから先も楽しみでなりません。

森本友紀(Yuki Morimoto)
大阪音楽大学作曲専攻卒・同大学院修了。N.Y州各地で舞踏と音楽の為の委嘱作品を発表。ブルックポート大学講師を経て、作曲家としてミュージカル、オペラ、劇伴を多く手がける。主な作品は宝塚歌劇団花組公演「邪馬台国の風」、ミュージカル「寝屋のはちかづき」(5年連続公演・1万人動員達成)、ミュージカル「不思議の国のアリス」、歌芝居「一寸法師」など。近年は落語や朗読、ダンスやバレエに楽曲を提供し、新しい形のコンサートを展開。それぞれの企画でプレーヤーとしても参加している。2024年4月より大阪音楽大学・大阪音楽大学短期大学部学長。