グローバルナビゲーションへ

本文へ

ローカルナビゲーションへ

フッターへ



  1. Home
  2.  >  News
  3.  >  〈レポート〉トリオ・ヘルメス コンサート「献呈三重奏」

〈レポート〉トリオ・ヘルメス コンサート「献呈三重奏」


\ Let's share! /

レポート

2025年5月30日、ザ・カレッジ・オペラハウスでトリオ・ヘルメス コンサート「献呈三重奏」が開催されました。大阪音楽大学とイタリア文化会館-大阪との共催による演奏会。イタリア国内外で精力的に活動している若手アンサンブルの初来日公演となりました。2人の作曲者の献呈作品が取り上げられ、訪れた人々は色彩豊かなトリオの表現力に魅せられました。
ー P r o g r a m ー

L.v.ベートーヴェン/ピアノ三重奏曲 第7番「大公」 変ロ長調 作品97
I.ピッツェッティ/ピアノ三重奏曲 イ長調

L.v.ベートーヴェン/
ピアノ三重奏曲 第7番「大公」 変ロ長調 作品97

1曲目は、ベートーヴェンにとって弟子であり、生涯親しくしていたルドルフ大公に贈った作品。「大公」と通称される三重奏曲です。村上春樹の小説『海辺のカフカ』に登場することでも知られ、多くの人に愛される名曲です。

第1楽章はピアノが気高く語り始め、チェロのふくよかな音色、ヴァイオリンのエレガントな音が重なり合って、彩り豊かに展開していきます。弦のピチカートと共に、ピアノのトリルが奏でられるなど、心地よい緊張感も交えながら主題が移ろっていきました。第2楽章ではさらに鍵盤と弦の掛け合いが多彩さを見せ、スケール感を生みます。躍動感あふれるスケルツォを奏でるヴァイオリン、その場の空気を一変するチェロの緩急、そしてピアノの端正な音色が響き合って、協奏のだいご味を発揮しました。

ピアノから始まる3楽章、甘美なアンダンテ・カンタービレには、鍵盤を弾く前の静寂から会場の期待感が高まりました。ピアノが右手、左手それぞれでストリングスと呼応していくさまには、音を通じて共感する喜びがあふれています。ピアノの粒の揃った音を弦が追いかけながら、微笑み合うようなアンサンブルが聴衆の心を溶かしました。

第4楽章は快活なメロディーのロンド。ヴァイオリン、チェロの伸びやかなロングトーンや、華やかなピアノの技巧が際立ちます。3者がトレモロで揃う場面のゆかしさには、トリオのみずみずしい感性が表れます。また、力強く奏でる音からは深い共鳴を感じる、堂々たる演奏でした。

I.ピッツェッティ/
ピアノ三重奏曲 イ長調

2曲目は、イタリア近代歌曲の作曲家I.ピッツェッティが妻に贈ったとされる「ピアノ三重奏曲 イ長調」です。

ピアノの静粛なモノローグから始まった第1楽章。チェロがシリアスに語り続け、ヴァイオリンも迫力ある高音を響かせると、ストリングスが音域を縦横無尽に駆け巡る展開に。それを思慮深くピアノが支えます。そして次第に慈愛に満ちた旋律に……。ストリングスのユニゾンが、ロマンチックなムードに導きました。

第2楽章のラルゴは、3者がそれぞれ身をゆだね、語り合うような構図。スケール感のあるピアノの音に、ヴァイオリンとチェロも情感豊かに音を紡ぎます。弱音もていねいに響かせつつ、ドラマ性のあるストーリーを繰り広げていきます。続く第3楽章では、「9月の協奏曲」という名の通り、季節の深まりを感じるようなさらに厚みのある表現に。トリオの歌心を存分に堪能し、フィナーレとなりました。

演奏が終わった途端、「ブラボー!」と声援を浴び、満ち足りた表情で挨拶をするトリオの面々。アンコールに応えてD.トゥーリ「まなざし」を披露し、会場に温かな余韻を残しました。

3者の音楽性が共鳴しながら、確信めいた音を奏でるトリオ・ヘルメス。献呈というテーマで、ベートーヴェンから大公への、そしてピッツェッティから妻への思いや敬意が感じられる演奏でした。本学創立110周年記念として開催された本公演は、イタリア文化会館-大阪からの提案によるもので、多くの方にアンサンブルの魅力を伝える機会となりました。

2025年に創立110周年を迎えた大阪音楽大学

Text / 沖知美(高速オフセット)
Photo / 山本みなみ

トリオ・ヘルメス

ジネヴラ・バッセッティ(ヴァイオリン)、フランチェスカ・ジリオ(チェロ)、マリアンナ・プルソーニ(ピアノ)によるトリオ・へルメスは、パルマのアッリーゴ・ボーイト音楽院でトリオ・ディ・パルマとピエルパオロ・マウリッツィのもとで学んだ後、ローマのサンタ・チェチーリア国立アカデミーで研鑽を積み、現在はクレモナのヴァルター・シュタウファー・アカデミーにおいてクァルテット・ディ・クレモナの室内楽クラスに通っている。同トリオはウィーン国立音楽大学(MDW)に選ばれ、ハット・バイエルレ、アヴェディス・クユムジャン、パトリック・ユット、ヨハネス・マイスル等の教授陣と共に活動する機会を得た。その後、欧州室内楽アカデミー(ECMA)のゲスト参加グループになった。また、シエナのキジャーナ音楽院財団により、イタリア外務・国際協力省との協働プロジェクト「世界におけるイタリア音楽の若い才能」の参加者に選ばれた。トリオ・ヘルメスは、スポレートのドゥエ・モンディ音楽祭、サンタ・チェチーリア国立アカデミー、ナポリのアレッサンドロ・スカルラッティ協会などの音楽祭や音楽機関・施設で演奏会を実施した。同トリオはまた、ローマのアルゼンチン劇場でローマ・フィルハーモーニー・アカデミーとの初共演を飾り、青少年音楽ドイツ連合とのコラボレーションによりヴァイカースハイムのタウバー・フィルハモニーの2024年最初の定期演奏会でデビューした。ブリリアント・クラッシクス・レーベルからトリオ・ヘルメスの初CDがリリースされることや、イタリア放送協会のRaiラジオ3とのコラボレーションで、クイリナーレ宮殿のパオリーナ礼拝堂から生中継されたコンサートで演奏したことも特筆される。音楽学者兼音楽評論家のグイド・バルビエリとともにベートーヴェンとフランシスコ・デ・ゴヤに焦点をあてた美術と音楽を横断するプロジェクトを考案した。2025年よりピラストロがトリオ・ヘルメスの活動を支援している。