グローバルナビゲーションへ

本文へ

ローカルナビゲーションへ

フッターへ



  1. Home
  2.  >  Feature
  3.  >  【羽鳥三実広】演劇経験ゼロから始まった芝居屋人生 立ち位置を自覚していたから、一歩ずつ前進できた
  4.  >  【羽鳥三実広】演劇経験ゼロから始まった芝居屋人生 立ち位置を自覚していたから、一歩ずつ前進できた

【羽鳥三実広】演劇経験ゼロから始まった芝居屋人生 立ち位置を自覚していたから、一歩ずつ前進できた


\ Let's share! /

仕事図鑑

世界で認められる作品、俳優の育成を目指して

ミュージカル界の活性化の一助に

大阪音楽大学で学生と向き合って12年、これまで11本のオリジナル作品を作ってきました。ほぼ毎年オリジナル作品を作り続けるのは心身ともに苦しいことでしたが、「作る文化」を作りたいという一心でオリジナルにこだわってきました。

最新公演「空の向こうの物語」の台本

スポーツやアニメ、映画の世界で活躍する日本人や日本の作品を目にする機会は年々増えていますが、日本のミュージカル作品が海外で一流と認められるまでには至っていないと思います。この現状を打破したいという思いがオリジナル作品にこだわる原動力の一つです。

一般的にミュージカルといえばブロードウェイというイメージを持たれますが、アメリカで生まれたミュージカルの歴史は200年にも満たない。それに対し、日本のミュージカルとも言える能や狂言、歌舞伎には比べ物にならないほどの伝統的な土壌がある。さらに言うと、能・狂言の発祥は関西なんです。

僕がミュージカル・コースの教育主任として就任したとき「関西発祥のミュージカルの拠点に」と掲げたように、関西で教えるからこそ世界に通用するオリジナル作品を作りたい、作れるはずだという思いでここまできました。

近年、大手の芸能事務所や劇団がオリジナル作品を手掛け始めているように、日本のミュージカル界を底上げしていく機運はようやく高まりつつあります。僕らは底辺かもしれないけれど、底辺が広ければ広いほど積みあがっていくものは大きくなります。その機運醸成のための一助となりたいという思いです。

モノマネではない、真の俳優を育てる

オリジナルにこだわるもう一つの理由は、「0から1を作る」その意味と価値を学生に伝えたいから。

例えば、ブロードウェイ作品のナンバーなら上手に歌えるのに、オリジナル作品のナンバーになると歌えなくなる学生がいます。楽譜通りの音は出ても、表現が伴わない。

なぜか。ブロードウェイ作品は見たことがあるから「歌い方」が分かるけど、オリジナル作品は見たことがないからどう歌えばいいか分からないんです。それはブロードウェイ作品のモノマネであり、俳優としての真の実力とは言えないんです。

ミュージカル・コースには高校までにダンスや演劇などを経験してきた学生もいますが、そうした過去の経験が俳優としての成長を阻害する側面もあります。ミュージカル俳優に必要な表現力――「想像力」と「技術」の基礎を磨くため、過去はいったんリセットして0からレッスンを進めていきます。0からのスタートは学生も指導者も根気が必要な苦しい過程ですが、全てはこれからのミュージカル界を担う俳優育成のため。せりふやナンバーを理解して、心の奥底から湧き上がる感情を表現できる、真の俳優の育成を目指しています。

0から作品を作る過程に参画できることも学生にとっては貴重な経験となります。台本の読み合わせでは僕とスタッフとの議論(ぶつかり合い)も全て見せるし、曲が作品のイメージと合わなければ高名な作曲の先生でも頭を下げて書き直しをお願いする。「僕のためではなく、作品のためにお願いします」と。僕らスタッフも俳優も、「作品に貢献することが仕事」だと伝えたいんです。

台本の読み合わせ段階ではどんな舞台なのか想像できなかった学生たちも、舞台が完成に近づくにつれ「こうなるんですか」と驚いています。台本(2次元)から舞台(3次元)へ、立つところから始まって動きをつけながらだんだん完成していく。その面白さや達成感はオリジナル作品だからこそ味わえる醍醐味だと思います。

通底するメッセージは「人間賛歌」

過去の作品では「戦争と平和」「介護問題」「無償の愛」など幅広いテーマを扱ってきました。ベースにあるメッセージはどれも人間賛歌であり、人の生き方。宮崎駿さんもおっしゃるように「人って素晴らしい」「生きていればそれだけでいいんだ」と。そこに集約されます。きれいごとだと言われるかもしれないけど、きれいごとって口に出していかないとダメだと思うんです。

これまでの公演ポスターが並ぶ演習室

例えば、戦争の作品を作るときにいろいろな資料を調べていると、女性は本当に強いと気づく。戦争に負けても覚悟をした人間は強く美しい。そういう人間であるべきだ、みんなそうやって生きようよと。介護問題なら、生きることは困難だけどその人たちも助けていこうじゃないか。

僕たち創作者は、作品を通してそういうポジティブなメッセージを叫ぶべきなんじゃないかと思う。人道支援を続けていた中村哲さんや緒方貞子さんのように、理想の実現のために世界中で活躍する日本人も多くいます。そういう人たちと自分を比べるのはおこがましいし、これまで大した生き方をしてこなかった罪滅ぼしなのかもしれないけど(笑)、志だけは持っていたいと思っています。

DAION座による教育現場へのアウトリーチ活動

僕が代表を務める「DAION座」はミュージカル・コースの上部団体として2017年にスタートしました。卒業生を中心とするメンバーがミュージカル作品の上演、コンサート活動、ワークショップなど幅広く活動しています。コロナ禍の影響で活動休止を余儀なくされた時期もありましたが、2023年末にようやく初公演を開催することができました。
好評を博した初公演「DAION座シアター vol.1」のダイジェストムービー
公演活動と並んで、もう一つの柱になっているのが教育現場でのミュージカルの普及活動です。

きっかけは、2015年に豊中市の小学校から学習発表会で上演するミュージカルを手伝ってほしいという依頼をいただいたことでした。元気な子は役者を、モノ作りが得意な子は裏方を――個性に応じた役割があって、みんなで作品を作り上げる達成感を得られるし、相談しながら進める中でコミュニケーション能力も高まる。ミュージカルや演劇がさまざまな面で子どもの教育に効果的だと分かっていても、学校の先生たちだけではどうやればいいか分からないんですね。

市の教育委員会を通して寄せられた依頼に、DAION座のメンバーが関わらせていただくことになりました。大学のサウンドスクール事業として9月から約2カ月間、2年生の89人と一緒に作り上げた作品は「スーホの白い馬」。発表会には保護者の皆さんにも来ていただき、好評をいただくことができました。以降、「DAION座が創作活動を手伝ってくれる」という話が広まり、2023年4月に開校した豊中市立庄内さくら学園から「ミュージカルのワークショップを学校のカリキュラムに取り入れたい」とのお話をいただくまでになりました。現在は、今年3月の“初公演”に向けて練習を重ねているところです。

欧米で小・中学校時代から演劇教育が行われているように、日本でも子どもの頃から演劇文化に触れる、作品作りに参加するといった機会はどんどん作っていくべきだと考えています。

大学としてこうした側面で社会や地域に貢献できる意義は大きいと思いますし、DAION座にとってもメンバーの活動の幅や視野の広がりを感じられる、価値ある取り組みだと感じています。