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自分の音楽をどんどん発信しよう


「皆さんが素晴らしい演奏能力や作曲能力を披露し、表現することにも力を注げる音楽人生であることを願います」

仕事図鑑

音楽に携わる人が、思いを語る「仕事図鑑」。
初回のゲストは「自分の音楽を伝えたい気持ちがあれば、ダイレクトに自己発信できる。なんて面白い時代だ!」と話す卒業生の木村玲さん。業界の第一線で働きつつ、プライベートでも次々と斬新なプロジェクトを立ち上げる、そのクリエーション魂とは――。
Ryo Kimura’s TOPICS
  • 2000年代にヒットドラマやアニメの主題歌を手掛けた人物。現在はレコード会社勤務
  • ライブ配信&レコーディングに特化したピアノスタジオを自作
  • ドルビーアトモス仕様の「空間オーディオ」作品に挑戦

プロと繋がりはじめた学生時代

🔗ビクターエンタテインメントというレコード会社に勤務して18年。音楽制作ディレクターやWebプロモーション、海外戦略などの業務を経て、2022年4月からは老舗レコーディングスタジオ「🔗ビクタースタジオ」に勤務することになりました。

高校時代はロックバンドに傾倒していました。ピアノ科に入るスキルはなくて、ちょっと変化球で大阪音楽大学作曲学科に入学。3年生のころからプロアーティストのバックバンドをやり始め、そのつながりで編曲やプログラミングにも携わるように。大学でのアカデミックな学びがストリングスアレンジなどに生き、現場で重宝してもらえたのです。機材やさまざまな楽器の知識を持っていたことも役立ちました。音楽を録音物として完成に導く「アレンジャー」という役割にフィットしたのだと思います。授業が終わったら朝まで仕事をして、なんとか出席を……とても真面目な学生とは言えませんでしたね(笑)。

チャンスをつかみ表舞台へ

イクシード [iksí:d] として活動したアーティスト時代(25歳頃)

「卒業したら東京に行く」と決めていたので、順調だった大阪の仕事も手放して、上京。アーティストの曲作りをサポートするマニピュレーター業からスタートしました。デモテープ作りをお手伝いして、仕上がりがよいとレコーディングに呼んでもらえたりもする、そんな世界です。そうして東京でもアレンジャーの仕事が軸になりました。

「自分もデビューできたらいいなあ」と思っていたところにヴォーカリストとの出会いがあり、チャンスが巡ってきました。1999年にソニーミュージックレコーズから2人組音楽ユニット「イクシード [iksí:d] 」としてメジャーデビュー。アーティスト活動にすべてをかけて、華やかな表舞台に立ちました。

自分の名前で音楽を作り、自分の演奏で世に出る。音楽づくり以外のことはプロダクションやレコード会社が担ってくれます。ドラマやアニメの主題歌を担当し、人気音楽番組にも出演させていただきました。10年ぐらい頑張れたらかっこよかったのですけどね。4年後の契約終了と共に解散し、就職の道を選びました。

音楽家のチャンスを広げたい

それからはミュージシャンの活動を支える側に。レコード会社には多岐にわたる仕事があります。音楽制作ディレクター時代には、ビクター所属アーティストのアルバムやシングルを作る仕事だけでなく、企業から発注を受けて、たとえば、スポーツジムで流す音楽やアミューズメント機器から流れる音楽などを制作する仕事も手掛け、そのようなBtoBの音楽制作も経験できて楽しかったですね。そうしてスタジオワークから音楽著作権管理、Webプロモーション、海外戦略など、さまざまな現場で経験を積みました。

これまで、コンサートなどを開催するには採算性の課題を抱えるのが音楽家の常でした。2012年頃よりインターネットを使った映像配信に関わるようになり、2016年から2017年にかけて集中的にライブ配信の現場に携わったとき、これから音楽の伝え方は変わっていくと確信しました。

休日に地域のオーケストラや合唱団に参加していると、そこでも素晴らしい音楽家の方々に出会います。高い演奏能力を持ちながらもビジネスとして苦労している音楽家がたくさんいます。皆さんをもっと世の中に紹介したいという気持ちが高まり、「ライブ配信スタジオ」をつくることを構想しました。

自作スタジオでの挑戦

“ピアノソロのライブ配信”というコンセプトなら自力で実現できるかもしれない―。当時は複数のカメラとレコーディング機能を常設するピアノスタジオは見当たらず、それならと自宅スタジオの改造に取り掛かりました。コンセプトに共感してくれた演奏家の方の協力もあり、2018年にスタジオを旗揚げすることができました。

旗揚げした「白金ピアノスタジオ」のピアノブース

同スタジオのコントロールルーム

運営は土日のみ。クラシック、ジャズを中心にライブ配信をスタートしました。演奏者は特別な準備はいりません。スタジオ内は完全なワンオペスタイルで、私がカメラと録音のコントロール、映像の切り替え、ライブ配信のオペレーションを行います。演奏者1人×スタッフ1人、小規模で手軽に開催できるのがポイントです。

その後コロナ禍となり、動画配信のニーズが急増しました。しかし鍵盤の真上からの撮影など、本格的な映像を撮るにはちょっとしたハードルがある。そこを当スタジオでお手伝いしています。昨年はショパン国際ピアノコンクールが話題になりましたね。予選の配信映像を見ていたら、当スタジオでほぼ同じことができると気づきました。鍵盤を真上から、演奏者を前から、手元を斜めから捉えるカメラによってハイクオリティな撮影が可能となり、ピアノコンクールのビデオ審査用の撮影や、コンサートホールでの収録なども手伝わせていただいています。

コンサートホールでオーケストラの演奏を収録するときの機材群

最新の音楽表現「空間オーディオ」

2021年夏、Apple MusicとAmazon Musicが「空間オーディオ*」機能をリリースしました。Dolby Atmos**(ドルビーアトモス)というシステムを使い、立体的な音像をヘッドホンで手軽に扱えるという大ニュースでした。一部のメジャーアーティストしか参入していない新しいジャンル。「チャンスが転がっているのでは」とすぐに動き始め、DIYでスタジオを空間オーディオ対応に改装したのですが、これが周囲に驚かれ、オーディオビジュアル総合情報サイト『AV Watch』にも詳しく掲載されました。

▶『スタジオを自作! 低予算で防音/Dolby Atmos対応を実現する方法(「AV Watch」にリンク)
*空間オーディオ
音楽や動画を視聴したとき、自分のまわりで演奏されているかのように音が広がって聴こえるAppleの技術。イヤホンでも前後左右から音が聴こえ、音に包み込まれる体験ができる。


**Dolby Atmos
7.1.4ch〈7つのスピーカーと1つのサブウーファー、天井に4つのスピーカー〉を使って音の空間を作るオーディオシステム。

Dolby Atmos(空間オーディオ仕様)の作品は手軽にスマホで視聴できる

空間オーディオ仕様の作品は、制作環境の規定や納品手段などいくつかハードルはありますが、たとえ自主制作だったとしても、無事リリースができれば、Apple Music等の音楽配信サービスで世界の一流アーティストと同じ棚に作品が並びます。アーティストが自ら発信できる方法の一つですね。現に、既存の音楽業界をすっ飛ばしてアメリカのビルボードチャートで上位に入った日本人アーティストもいます。制作過程ごとにその道のプロが作り上げるメジャー作品とは、また違うクリエーションが生まれるはずです。

「ライブ配信」にかけるワケ

テレビなどの既存メディアには多くの人が関わり、物事を動かすためには大きな労力と資金が必要です。しかし手作りのライブ配信なら、自らダイレクトに世界に発信でき、誰もがチャンスをつかむことができます。

ライブ配信は無観客です。目の前のお客さまに喜んでもらうための演奏とは違う力が生まれます。その空間にいるのは自分一人。「今の自分にふさわしい表現とは」「自分の演奏とは」に向き合うことになるのです。レコーディングに近い感覚ですね。初めはカメラとマイクだけの状況に面食らう方もいます。けれどゾクゾクするような面白さ、達成感がある。自分の音楽を追求して発表するという、時代に合う表現スタイルの一つです。
  • Bud on Bach - Jazz piano & guitar Duo (Yuko Uchida & Yoshihiko Hosono)
  • Tanaka Wao Jun & Ryo Kimura - Tea 4 Tee (ICE) / THE FIRST TAKE

自分の音楽を世界に発信しよう

これまで音楽家が成功するには一定の型があり、大多数はそのレールに向けて努力をしてきました。けれど今は自らダイレクトに発信する方法があり、誰でも世界に名をとどろかせるチャンスがあるのです。これはすごく面白いことです。音楽を学ぶ若者たちが、どんどんチャレンジする姿が見られたらいいなと思います。

大学生時代の門下旅行(左端が木村さん、左から3人目は故山口福男教授)

私は「どん底でもいいから、早くプロの一員になりたい」という気持ちが強く、学生時代も仕事に軸足を置いていました。売り物の音楽ばかりさわっていて、「純粋に音楽を学べる環境にいるのにもったいない」と気づいたのは4年生の時。卒業制作で無調の音楽を書き、改めて大学の勉強に向き合いました。

とはいえ、日々の課題さえこなせば音楽家としてやっていけるものでもありません。外の世界と接点を持ちつつ可動域を広げられたのが、私にはよかった。皆さんには、音楽を学ぶかけがえのない時間を大切にしながら、「何か世の中にないものを作りたい」という気持ちでアクションし続けてほしい。ミュージックビジネス専攻の誕生など、母校の新しい取り組みにこれからも注目しています。「こんな伝説をつくった!」という、ワクワクするニュースを待っています。
取材・文/沖知美(高速オフセット)
写真/本人提供

木村玲(Ryo Kimura)
1997年大阪音楽大学卒業。フリーランスの音楽活動から、1999年2人組ユニット「イクシード [iksí:d] 」としてデビュー。テレビドラマ『永遠の仔』やテレビアニメ『東京アンダーグラウンド』主題歌の作編曲を手掛け数々の音楽番組にも出演。解散後はレコード会社に勤務しながら、プライベートで2018年に「白金ピアノスタジオ」を設立。2021年、スタジオ内にドルビーアトモス仕様の録音設備を備え、自作曲「Night Piano」をリリース。得意料理は唐揚げ。

俯瞰カメラあり、グレードの高い映像作品が撮れる白金ピアノスタジオ

グランドピアノと4台のカメラを配したスタジオ。手元の俯瞰映像など、ハイクオリティの映像が撮影できる。アーカイブ映像のほかに、ピックアップ&ミックスダウンをした映像を作ることも。
詳しくはこちら(公式サイトにリンク)

業界で話題のドルビーアトモス対応スタジオ

自作の様子が専門誌『AV Watch』で特集された収録ブース。7.1.4ch(7つのスピーカーと1つのサブウーファー、天井に4つのスピーカー)の立体音響で作品作りができる貴重な環境。
詳しくはこちら(「AV Watch」にリンク)