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「人生の転機」(片岡リサ)


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コラム
筆者/片岡リサ(箏奏者)
皆さんが音楽を始めたきっかけはなんですか。もしくは、今勉強していることを始めたのはどういう契機でしょうか。今回は、私がなぜ箏という楽器に出会ったのか、箏を続けることになった最大の理由を、記憶を思い起こしながらお話したいと思います。
私の最初の音楽学習経験はピアノでした。元来、練習が好きではなく、ピアノも練習せずレッスンに向かい結果いつも怒られるという、まったく良い生徒ではありませんでした。音楽自体は幼い頃から好きでしたし、音楽だけは苦労したことなく、歌もリコーダーもいろんな楽器も学校の授業ではそれなりの練習で楽しく出来ていたので、たくさん練習しないと弾けないピアノは唯一の強敵でした(笑)。
そんな小学生だった私が、この後ずっと人生を共にする楽器に巡り合います。父の勧めで近所の箏教室に通うことになったのです。私の父は音楽を聴くのが趣味で、ギターが流行った世代なのもあり自分でギターを買い独学でつま弾いていました。その父が、同じような形に惹かれたのか、突然「三味線やってみようかな」と思い付きます。さすがに三味線は独学では無理だと思ったのか、ある日、近所に三味線を教えてくれる先生を見つけました。しかし一度もちゃんと教室に通って音楽を学んだことがない父は急に教室に通うのを躊躇し、同じ教室で箏を教えていることを知り、私に身代わりに(?)箏を習いに行かせることにしたようです。
父「箏、習いに行くか?」
私「箏って、なに?」
父「日本の楽器」
私「(なんか知らん楽器やけど)うん、習う」
箏という楽器を知らなかったし、正直、興味を持ったのではなく、ピアノから逃げられるならなんでもよかったのです(笑)。父の提案を訳もわからぬまま受け入れました。近所の箏教室のお稽古は週に1回。お稽古の日に、学校から帰ってきて30分しか練習せずに教室へ。なにせ元来の練習嫌いなんですもの、週に30分が限界です(笑)。なのにどうしたことでしょう!箏の先生は毎回「リサちゃん、上手ねー!」と褒めてくださるのです。ピアノでは怒られっぱなしで褒められ慣れていない私、とても気分が良くなります。「私、箏が上手なのかな?」と勘違いから始まり、もう少し上手く弾きたいと思いはじめ、練習量がすこーしだけ増えました!(先生が褒め上手だったってことですね)。
そうこうしていると、ついに箏で初舞台を踏むことになります。近所の箏先生が師事している大先生が主催の、子どもたちの発表会、という趣旨でした。ピアノの発表会で弾くのは好きじゃなかったのに、舞台の怖さもまだ知らぬまま楽しく弾き、客席にいる両親の姿を見てニコッとする余裕っぷり!その後、その演奏を聴いた大先生が私に興味を持ってくださり、近所の先生の手を離れ、大先生のところへレッスンに通うことになりました。この先生が私を箏の世界に導いてくださった恩師です。

小学生の時の発表会にて母と

恩師は私より60歳も上のおじいちゃまの先生でした。レッスンを待っていると、厳しい稽古に泣かされているお姉さんたちが沢山いて、最初は戦々恐々としていた記憶しかありません。しかし稽古を重ねるうち「どうして先生の箏の音はこんなに綺麗なの?」「先生のような演奏をしてみたい!」という気持ちが自然と湧き上がって来ました。当時も練習は好きではありませんが、練習すれば弾けるようになることを知り、弾けるようになると自分の思いを音に乗せられることにも気づいたのです。そして小学6年生で受けたコンクールで賞をいただいたのが練習嫌い克服に繋がりました。とにかく先生の音が私の憧れ、その一心で中高生時代を過ごしました。
さて大学受験をどうするかという時期がおとずれます。私は最初、一般大学に通いつつ、箏は先生の元で稽古を続けるつもりでした。が、先生から「プロの奏者になりたいと少しでも思っているなら、音大に行けば音楽の専門知識をたくさん学べる。それだけでなく音楽という共通の言語を持つ友人ができる。音大は邦楽以外の教員・学生ばかりだから、いろんな知り合いができるし、一般大学では学べない音楽の幅を感じることができるよ」というお言葉で、音楽大学を受験することにしました。結果、本当に音大に通い勉強してよかった!と心から思います。
あの時、演奏家としても人としても、とてもとても憧れ深く敬愛していた先生からの言葉は、あれからウン十年経った今でも有難く感じています。学生時代に学んだことは、今でも役に立っています。時間が自由に使える学生生活でひとつのことに打ち込むこと、憧れの存在が身近にいたこと、友人や先生がたに恵まれていたこと、全てが私のかけがえの無い財産になっています。
人生を変える転機はいつか訪れます。それがいつかは誰にもわからないし自分にもわかりません。のちに振り返った時に何かを感じられるよう、どんどん新しいことに挑戦し、いまを一生懸命に過ごしたいと思っています。

片岡リサ プロデュース
「新・日本の響き和のいずみ」公演(いずみホール)

2023年8月26日(土)、片岡リサ プロデュース「新・日本の響き和のいずみ」がいずみホールで公演されます!

公演の詳細は🔗こちら



片岡リサ(Lisa Kataoka)
大阪音楽大学卒業、大阪大学大学院文学研究科博士前期課程修了(音楽学)。2011年第21回 出光音楽賞、平成13年度文化庁芸術祭〈音楽部門〉新人賞を洋楽邦楽問わず史上最年少で受賞するなど、伝統音楽の枠を超えた音楽性が、様々なジャンルで高く評価されている。皇太子殿下・秋篠宮殿下御前演奏をはじめ、平成22年度 大阪文化祭賞、平成23年度 大阪市より「咲くやこの花賞」、平成30年度文化庁芸術祭優秀賞など受賞。多くのオーケストラとの協演、洋楽器とのアンサンブルや現代作品にも力を入れ、『Disney on CLASSIC』全国ツアーにおいてディズニーの名曲をソリストとしてオーケストラと共演。宮崎国際音楽祭出演、全国での小中学校アウトリーチ活動など幅広い音楽シーンで活動しており、伝統の継承のみならず次世代の邦楽演奏を目指すコスモポリタン奏者。現在、大阪音楽大学特任教授、同志社女子大学・兵庫教育大学非常勤講師、宮城社師範。