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「朝の歌」(木田雅子)


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コラム
筆者/木田雅子(ヴァイオリニスト)
1995年1月17日の早朝、あの阪神淡路大震災に襲われ、一瞬で失われてしまった私たちの日常…。幸いなことに家族は全員無事でしたが、住まいは全壊指定となり、倒れてきた本棚に押しつぶされた私のヴァイオリンはバラバラになり、12箇の木片と多くの小さな破片と化していました。
こんな状態になってしまった楽器の修復は不可能なのではないかと思いつつも、ヴァイオリン制作者の奥野晃久さんにお願いしてみました。幸いにも奥野さんは「何とかやってみましょう」と請けてくださいました。バラバラになった木片と破片を立体パズルを組むように正確に組み上げ、それらを毛細血管を繋ぐように繋ぎ合わせて元の強度に復元する、という気の遠くなるような作業をされること1年半。奇跡的に私の楽器は蘇りました。絶望の淵にあった私の気持も蘇り、また音楽が奏でられるようになったことへの感謝の気持ちを社会に還元したいという思いが湧き上りました。このことが、それ以降のチャリティコンサートを中心とした活動をライフワークとすることに繋がっています。
震災から20年目の節目にあたる2015年、活動の積み上げの一里塚の気持ちでリリースしたのがCD「朝の歌」です。困難なことがあっても前を向いていたら進める。明けない夜はない。必ず朝は来る。そんな気持ちをタイトルに込めました。

「朝の歌」出荷数は2,000枚超。売上は全て災害復興支援へ寄付されている

阪神淡路大震災以降も各地で災難は続き、これまでに寄付させて頂いたのは東日本大震災、熊本地震、西日本豪雨、トルコ地震、来日ウクライナ難民支援、日本赤十字活動支援など、多くの地域に及んでいます。また、「朝の歌」のCDを聴いてくださった方のご尽力で、ナポリ音楽院やベルリンでのチャリティコンサートの開催が実現したこともありました。

各国で好評を博したチャリティコンサート

何度も折れかけた私をその度に支え続けてくれたのは、音楽です。困難な時も変らぬ美しさと優しさで私たちを勇気づけてくれる音楽は、被災された方々の復興への前向きな気持ちを支え続けることができる、と自身の経験からも確信しています。
CDを制作する過程では、それまでとは違った観点で音楽に向き合うことも経験し、その後の私の指導法にも影響がありました。そして、今でも毎日のように新しい発見があります。なんて美しい世界があるんだろう、この世界に近づきたい、少しでも手が届くように、との思いでヴァイオリンを弾いています。
音楽と共に生き、それが微力でも社会のお役に立てるのであれば、こんな幸せなことはありません。困難なことがあっても前を見たら進める、必ず朝は来る。「朝の歌」と名付けた日の気持ちのまま、決して終わりのない音楽の道をこれからも歩み続けたいと思います。

木田雅子(Masako Kida)
大阪音楽大学卒・同大学院修了。第29回全日本学生音楽コンクール高校の部全国第1位。大阪フイル、テレマン室内管弦楽団他多くのオーケストラと共演。TV・FMなど放送分野でも多くの番組に出演。2015年CDアルバム「朝の歌」を発表、全収益を震災復興支援として毎日新聞を通じて寄付。2017年・2018年伊ナポリ公演、2018年・2019年独ベルリン公演を行い大好評を得る。2020年1月、阪神淡路大震災25年目にチャリティー公演を行い、全収益を日本赤十字を通じて寄付。現在、大阪音楽大学特任教授、県立西宮高校音楽科非常勤講師。