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鼎談「斬新なカリキュラムで、音楽業界から求められる人材を育成」


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斬新なカリキュラムで、音楽業界から求められる人材を育成

岡本: 2022年春、ミュージックビジネス専攻を開設するにあたり、その目的、意義について本山学長にお伺いします。

本山:音楽大学では旧来、ピアノや声楽、管弦打楽器、作曲といった個人レッスンの教育を中心に展開してきました。その後、商業と関わる音楽が台頭したため、本学は1992年に全国で初めてポピュラーコースを開設しました。ポピュラーやジャズ、電子オルガン、ミュージカルといった領域です。当時は新しい取り組みでしたが、現在では音楽大学がポピュラーを学ぶ場としてすっかり定着しました。
さらに本学は2016年、ミュージッククリエーション専攻とミュージックコミュニケーション専攻を開設しました。前者は主にコンピューターで音楽を作り、商業に結び付けるクリエーターを、後者は音楽で人と社会をつなぎ、音楽イベントを総合プロデュースする人材を育成します。開設以降、広く社会にアピールするとともに、多くの学生を迎え入れ、今年初めて卒業生を輩出するに至りました。ミュージッククリエーション専攻の卒業生はゲーム音楽を制作する企業などへ、ミュージックコミュニケーション専攻の卒業生は在阪の公共ホールなどへ就職しました。学生をしっかりと育て社会に送り出すという、大学の使命を果たせて安堵(あんど)しています。
本学の規模を時代に応じた適切なサイズに転換する必要がありますが、守るだけではなく攻めの姿勢も大切だと考えています。そこで新たな領域を模索したところ、ITと音楽ビジネスを結び付けたミュージックビジネス専攻にたどり着きました。すでに他の大学で音楽ビジネスを学ぶコースが設置されていますので、その後を追うのではなく、本学ならではの新たな切り口での開設を目指しています。
ミュージックビジネス専攻は、ミュージッククリエーション専攻やミュージックコミュニケーション専攻と同様、本学における“第3世代”の専攻です。経営学やビジネスとの結び付きが強く、従来の音楽大学の教育とは一線を画すものです。他の大学にない斬新なカリキュラムによって、音楽業界から求められる人材を輩出したいと考えています。
岡本:山口さんはミュージックビジネス専攻の特任教授に就任されました。現在の音楽ビジネスが置かれている状況などをお聞かせください。
山口:2015年に出版した「新時代ミュージックビジネス最終講義」(リットーミュージック刊)がきっかけで、今回ご依頼いただきました。この20年ほどの間、音楽ビジネスはITの実験場でした。特にインターネットによって音楽ビジネスが激変し、旧来の音楽業界に携わっていた人たちのスキルが有効でなくなってしまいました。CDを一生懸命に売り、テレビで音楽を流すというビジネス手法が、デジタルのサービスで音楽を聴き、SNSで評判が広がる仕組みに変化したからです。海外は、Spotify、Apple Musicに代表されるデジタルサービスの伸長で音楽業界がV字回復しました。
しかし、音楽ビジネスのデジタル化において、日本は世界で最も遅れています。
その理由は、日本の音楽ビジネスがよくできていたがために、デジタル化という変化を遅らせる力学が働いたからです。2015年当時、私は強い危機感を持って「新時代ミュージックビジネス最終講義」を書きました。それでも変化は進まず、欧米や中国、韓国から大きく後れをとってしまいました。これを解消する最大のキーは人材育成です。私は7、8年前から音楽プロデューサーという立場に加え、エンターテックエバンジェリストと名乗り、セミナーや著書を通じて、人材育成の重要性を訴えてきました。

岡本:本山学長から特任教授としてミュージックビジネス専攻の立ち上げを依頼されたときの感想はいかがでしたか。
山口:率直に言って驚きました。同時に非常にやりがいを感じています。日本のコンテンツ力やクリエイティブ力は世界有数のレベルにあります。一方、音楽ビジネスのプロデュース力は世界で最も劣っています。この現状を変えるには、音楽を愛しテクノロジーを活用できる若者を社会に送り出すことです。そのような人材は音楽業界だけではなく、IT業界、メディア業界にも必要です。歴史や伝統のある音楽大学が、時代に対応した人材を本格的に輩出する意義は大きく、特任教授として全力で取り組ませていただきます。

岡本:私がレコード会社に在籍してA&Rを担当していたころ、音楽業界の周辺にはクリエイティビティーに溢れた優秀な人材が集まってきていたと思います。そのころと比べると、音楽業界が低迷しているというイメージのせいか、他にも理由はあると思うのですが優秀な人材が集まりにくい業界になってしまったような感じがしています。
人材育成において、私は前職の専門学校で一定の成果を出してきた自負はあります。しかし専門学校で学ぶ2年間では現場に強い人材を育成できても、2年生になると就職活動をしなくてはならないという時間的な制約から、時代に対応でき、トータルプロデュースができる人材を育成するのは困難なことでした。2年とはいえ就職活動を考えると実質1年なので、極端に言うと一般常識を教えるので精いっぱいでした。
音楽ビジネスにとって必要なことは、手に職を付けるということよりコミュニケーションできる力を養い、プレゼンテーションを通して、仲間の輪を広げていく力が求められます。ミュージックビジネス専攻にとっての4年間とは、社会における音楽の位置づけを俯瞰でとらえることができ、起業できる能力を持つ人材を育成していくことだと考えます。

コロナ禍で日本の音楽ビジネスが変化

岡本:現在、世界中がコロナ禍の中にあります。新型コロナウイルス感染症の発生前と後では、音楽ビジネスはどのように変化していくのでしょうか。
山口:おそらくコロナによる打撃を最も受けているのが音楽ビジネスです。コンサートができず、しかも自粛要請による国からの補償はありません。日本の音楽ビジネスの主力商品はCDやDVDですが、アーティストとリアルに会えないことも影響し、売り上げは大きなダメージを受けています。コロナ禍は日本の音楽業界にとっては、未曾有の危機であると同時に、大きく遅れているデジタル化に取り組む好機でもあると言えるのです。
コロナ禍に見舞われたことで、昭和から続く音楽ビジネスの仕組みが変わらざるを得なくなったことをチャンスに変えたいですね。これはチャンスで、音楽ビジネスの本質的な変化が間違いなく加速します。そうはいっても、日本は世界の潮流より6年ほど遅れているため、3年分を取り戻せるくらいだと思います。コロナ禍が収束したころ、まだ世界で一番遅れていたとしても、先頭を走っている国の背中が見えていればいいですね。
岡本:確かに、山口さんのおっしゃる通りだと思います。これまでCDしか聴かなかった人が、SpotifyやLINE MUSICなどサブスクリプションを通して聴くスタイルが加速度的に進むでしょう。ようやく日本の音楽業界が世界標準の音楽ビジネスに対応していくことになります。日本の音楽に対するIT化の遅れは、以前の貸しレコード店に対する音楽業界の対応が遅れたためにCDの売り上げに大きなダメージを受けてしまった時のようなことにならないように、レコード会社をはじめとする音楽業界全体として特に著作権を含むさまざまな問題に先回りして整備しておく必要があると思います。
山口:日本はIT化が世界で最も遅れた一方、スマートフォンの違法音楽アプリが世界で最も普及しています。これは日本のレコード業界を中心とする音楽業界がきちんと対応してこなかったことが原因です。これから大学に入学する若者はデジタルネイティブ世代であり、スマホの違法音楽アプリについて、おそらく私たちより詳しいでしょう。違法音楽アプリを認めてはいけない思想を伝えるとともに、克服するために何をすべきかを考えさせる。ミュージックビジネス専攻は、そのような提案の場になればと思います。
世界の潮流としては、ヨーロッパを中心になって、AppleやGoogleなどのプラットフォーム事業者に、責任を負わせる方向に進みつつあります。日本は「周回遅れ」になっているので比較が難しいのですが、デジタル社会の音楽の在り方についての研究も社会的な影響力のある音楽大学が研究・提言することに大きな意義がありますので、中期的には積極的に取り組みたいですね。
本山:コロナ後は、大学もいや応なしにさまざまな変革を余儀なくされています。他大学では初年次を中心に、この1年間ずっと遠隔授業が続いていると聞きますが、本学は5月末ぐらいから対面のレッスンを中心に通常の授業を再開しました。その他、学内のWi-Fi環境の整備など、コロナによるさまざまな変化を目の前に突き付けられています。本質の変化を余儀なくされる部分もありますが、変えてはいけないものもあります。学生たちはその点を敏感に察知しており、変えてはいけないもの、大学で学ぶべきものは何かをしっかりと理解しています。
ミュージックビジネス専攻の開設にあたっては、音楽大学だからこそ得られる価値観を、ぜひベースの部分に入れていただきたい。その上でITの新しい潮流にも目を向けて進んでいければと思います。学生にとって学びの環境はとても大切で、お二方との出会いや考え方に影響を受けることは大きな財産になります。ミュージックビジネス専攻では、これまでにない新たなものを始められる予感がしています。

豊かな感性を磨くことが不可欠

山口:大学での学びを通じて、「テクノロジーではできない部分」を知ることもすごく大切です。それは、できないことを正確に知ることにより、テクノロジーの進化を促す側面があるからです。技術万能主義を語る人もいますが、音楽の場合、空気の振動で人は感動しているわけですよね。現時点ではインターネットからヘッドフォンで音楽を聴くとき、空気の振動を完全に再現できません。音楽の深遠さを理解していない人は再現できていると思っているかもしれませんが、それは音楽の聴き方が浅いからであって、本当に音楽が好きな人は、オーケストラを聴くときはいいホールで、いい演奏家で、いい指揮者でないと感動できないことを肌感覚で知っています。デジタルに置き換えるのがすごく難しい部分ですね。ビジネスとデジタルに加え、生の感動を理解することがとても大切です。それがわかるとテクノロジーの進化も加速させられるし、よいサービスが産み出せます。
本山:毎日、コンピューターに向かって作曲しているだけでは気付かないことがあります。曲の展開は必ずしも聴き手の予想通りに進むわけでなく、予想されない展開が起こるからこそ感動があり面白いのです。そのような不自然さ、揺らぎなども含めたものが表現であるならば、ミュージックビジネス専攻での学びが、通り一遍でない音楽業界の発展を促すように思います。
岡本:確かに技術やITの進歩はすさまじいです。この進歩に対応できるスキルを身に着けることは大事なことだと思います。しかしそれ以上に大切なことは、大学での4年間の学びを通じて豊かな感性を身に着け、磨くことが不可欠です。ミュージックビジネス専攻は技術者を養成する場ではありません、4年後の就職や起業することに向けて感性を豊かに持ち、音楽をこよなく愛していることが最初の一歩になるような気がします。
本山:音楽業界では、いわゆる一般の大学や高校、専門学校を卒業した方が活躍されているのだと思います。音楽大学卒という経歴の方は、ほぼいらっしゃらないでしょう。
山口:学歴としてはいなくはないのですが、日本の音楽業界は音楽大学と縁が薄いですね。
本山:他の大学で同様の取り組みがなされていますが、ミュージックビジネス専攻は自分たちへの挑戦であると同時に社会への挑戦でもあります。それだけ責任が大きいと感じています。多様な学生が入学してくると思いますが、本学ならではの教育環境が課題解決のヒントを生み、個人の発想力を高められればと思います。
山口:デジタル環境が大幅に変化し、個人でたいていのことはできる時代になりました。私も「社会に出る」といった表現を便宜上しますが、今やスマホがあれば社会に出ているのと同じです。そのため、自分の好きなアーティストを発掘して売り出すといった起業にも挑戦できます。既存の音楽業界の人たちとのパイプは私たちが作れますし、客員教授などを通じて自然にできるでしょう。もはや、在学中にOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)を体験しているようなもので、大学での学びそのものがインターンシップになる。ミュージックビジネス専攻をそのような場にしたいと考えています。

起業家などを客員教授に招へい

本山:山口さんの著書「世界を変える1980年代生まれの起業家」(スペースシャワーネットワーク刊)には、バンドの活動支援や、世界中でWe Are the Worldを歌うアプリを開発した人の起業が紹介されています。音楽大学には第1世代や第2世代のさまざまな音楽が渦巻いているので、そこから起業のヒントを得て、相乗効果が生まれれば面白いと思います。
山口:GAFAを代表とするデジタルプラットフォームの多くはアメリカの西海岸、シリコンバレーで誕生しました。大学がハブの役割を果たしました。大学での学びや人間関係がIT巨大企業誕生の素地だったわけです。あまり風呂敷を広げてもいけませんが、音楽ビジネスを学んだり起業したりするなら、大阪音楽大学でできるようにしていきたいです。大学在学中に「失敗」を経験し、何度もチャレンジできることに大きな意味があります。
岡本:「世界を変える1980年代生まれの起業家」は約8年前、山口さんと一緒に作りました。彼らは私たちと同じように音楽やライブが大好きで、豊かな発想力を持っている若者たちでした。特にテクニカルな人材ではありません。違う点は、レコード会社や音楽事務所など、従来の音楽ビジネスにはさほど興味はなく、就職にそれほど関心がなく、音楽を上手に利用したビジネス展開を考えていました。
山口:私がその本を出版したときは、音楽プロデューサーとしての仕事から、起業家や新規事業の育成に自分の活動の軸足が動き始めているときでした。主にエンタテインメントに関わる起業家10人を選び、岡本さんと一緒に特別講義を行って、その講義をベースにインタビュー対談集の形でまとめました。2021年現在、彼らは立派な起業家となり、年齢も30代後半になっています。お金持になって会えばごちそうしてくれる人もいます(笑)。特に音楽関連の事業を携わる3人にミュージックビジネス専攻の客員教授をお願いしました。
若い学生たちにとって、彼らとの連携はきっと刺激になります。映像BGMのマーケットプレイスAudio Stockは急激に売り上げを伸ばしている岡山本社の会社です。音楽コラボアプリ「nana」を知らない高校生はいないでしょう。DIYアーティストが自分で世界中に配信できるTuneCore Japanは日本の音楽シーンを変えることに大きく貢献しています。そんな音楽系起業家である、西尾さん、野田さん、文原さんに専攻の運営に意見をもらい、学生にも直接触れてもらえるのは大きな価値になるはずです。音楽に対する愛を持った、非常に優秀な人たちです。ミュージックビジネス専攻の成功のために協力していただきます。

2000年代生まれは、それだけで“得”

岡本:音楽業界やエンタテインメント業界が求める人材の育成に向け、ミュージックビジネス専攻に求めるものは何ですか。
山口:先ほどお話ししたように、在学中に起業して軌道に乗ればそのまま進めばいいですし、失敗したら就職してもいいと考えています。エンタテインメント業界を含むメディアコンテンツ業界では、人材のミスマッチが起きています。音楽が好きでテクノロジーの状況を理解していて、SNSで世界中に音楽が広がることを理解している人材を業界は求めています。
ミュージックビジネス専攻は、そのミスマッチを解消することも目的としています。デジタルネイティブやZ世代と呼ばれる2000年代生まれの人は、それだけで“得”です。正直言って悔しいくらい(笑)。そんな彼らに確かな“武器”を持たせてあげれば、早くから社会で活躍できます。18、19歳で起業するかもしれませんし、就職すれば企業の即戦力になれます。おそらく、音楽とIT を社内で最も理解した存在になれるので、最初からやり甲斐のある仕事ができて、キャリアアップしやすいでしょう。ミュージックビジネス専攻では、すでに持っている“得”を生かすため、個人の興味や関心に応じて学べるメニューを用意します。そこで得たものが“武器”になりますね。現在、カリキュラムの細部を詰めているところです。
本山:非常に興味深いお話です。ミュージックビジネス専攻での学びが、学生たちの明るい未来につながる可能性を感じます。
一方、高校生たち若者に、ミュージックビジネス専攻のメリットをどのようにして伝え、本学に目を向けてもらうかという課題があります。これは意外と大変だと思います。
日本の中学・高校教育は、個性を見いだして個人の能力を伸ばすのではなく、割と画一化されています。自ら資料や情報を集め、個性を伸ばそうとする生徒もいますが、多くの若者はそうありたいと思っても、探し切れていないと思います。そういった生徒に目を向けてもらうためには、広報活動などが非常に重要です。
もう一つの大きなハードルは親御さんの意向です。山口さんの著書にもありましたが、就活を経て社会人になるという従来の価値観を持つ保護者から、理解をどのようにして得るか。そこを突き崩していかなければ、理想的な展開が見えてこないと思います。
山口:10代の若者は自分で歌ったり演奏したりしたいものです。音楽業界で働いている人のほとんどは、若いころにバンド活動を経験しています。対象となる若者には、自分が歌っている曲を広める方法や、著作権の重要性などを伝えます。ミュージシャンを目指しながらミュージックビジネスを学ぶことは本当に素晴らしいことです。しかも、音楽大学にはいろんな楽器があり、確かな教育を受けた音楽家もたくさんいます。その点をアピールすれば分かりやすいと考えています。
親御さんに対しては「就職に強いです。上場企業に入社できます」という説明がシンプルでわかりやすいかもしれませんね。高校時代の偏差値は関係ありません。高い意欲を持って、ミュージックビジネス専攻で4年間楽しみながら学べば、一流企業に就職できるはずです。僕は完璧に自信あります。なぜなら現在、日本のコンテンツ・メディア産業では人材のミスマッチが起きているからです。もしお子さんが音楽好きで、親御さんが一部上場企業に就職させたいと考えているなら、大阪音楽大学ミュージックビジネス専攻はベストの選択です。その上で学生本人が、起業するのか、アーティスト活動を本業にするのか在学中に手に入れる知見と人脈を活用して、就職も含めて、選んでいけば良いと思います。私達は全面的に学生たちの未来をサポートするつもりです。
本山:SNSの話題が出ましたが、私たちよりも高校生世代の方が圧倒的に使いこなしています。自分の作ったものをTik Tokなどにアップすれば、瞬く間に何十万人がそれを見て反応する時代だと彼らは気付いています。それを人生のツールにする方法を教えるのが、ミュージックビジネス専攻の使命です。
岡本:音楽業界への就職を目指す場合、企業側にとって音楽大学で音楽ビジネスを学んだ事実は、普通の音楽が好きな学生よりも音楽に対する本気度が高く映ると思います。ビジネスとは縁遠く感じられる音楽大学だからこそ、企業側に強くアピールすることができるはずです。
ただ、新設コースのため、就職実績がないのが苦しい点です。山口さんが「間違いなく就職できる」とか、私が「前職で98%の就職実績がある」と訴えても、高い学費を払う親御さんを納得させるのは至難の業です。就職実績が出るまでの4年間は、客員教授のラインアップなど、セミナーや特別講義などを通して業界への強みを、東京ブランチなど、キャリア活動のプランを明確に示していく必要があります。
山口:客員教授を依頼する際、名義貸しのつもりなら断ってください、と伝えました。毎週授業をする必要はありませんし、時間的に不可能ですが、ミュージックビジネス専攻で行うことに何らかコミットするようにお願いしています。学生がどのように育ち、どのように社会に出ていくかという大事な部分のプランニングと具体のネットワーク作りに、客員教授にはコミットしてもらいます。

日本でもアーティストがビジネスを学ぶ時代

岡本:コロナ後の話もしてきましたが、10年後、ミュージックビジネス専攻を取り巻く状況はどのように変化していると思われますか。
本山:山口さんの著書にあるように、10年後のスマホはさらに小さくなり、あるいは体内に埋め込まれているかもしれません。そのような時代の予測は難しいのですが、卒業生たちはそれぞれのジャンルのトップランナーとなり、音楽業界をけん引している状況であることを願います。そうなれば、彼らが学んだ環境、すなわちミュージックビジネス専攻の価値が高まります。ミュージックビジネス専攻での学びが音楽業界の先駆けとなり、卒業生たちが“日本のIT化の遅れ”を取り戻してほしいですね。
岡本:日本のアーティストはもっとビジネスを勉強する必要があると思います。外国のアーティストはまず初めに自分の音楽ビジネスに対する弁護士を選んでから、自分のマネージメントをチョイスすると聞きます。これまでの日本では、レコード会社や所属事務所がマネージメントするため、アーティストはビジネスについてほぼノータッチな状態でした。
現在は、作曲から配信までアーティスト自身で行えます。これからは、SNSのマーケティングなら誰にも負けない人材、マネージメント力にたけた人材をアーティストが選ぶ時代になっていくと思います。そのため、ミュージックビジネス専攻では知的財産管理、財務会計概論といったさまざまな音楽ビジネスの場面を想定したカリキュラムから構成されています。
山口:ミュージックビジネス専攻の5年から10年先は、アーティストとしてプロになりたい人と、アーティストと一緒に仕事をしたい人が同じキャンパスにいることが価値になっているかもしれませんね。
世界基準に照らすと、日本の音楽家は極端にビジネスマインドが低い。それは、音楽業界がアーティストを守ってきた側面があります。守るということは、ほぼスポイルしてきたということでもあります。功罪あるのですが、いずれにしてももうセルフマネージメント感覚、ビジネスセンスの無い音楽家の存在は許されない時代が来ています。アーティスト自身がビジネスを学ぶべき時代であることは間違いありません。
アメリカをはじめ海外のミュージシャンは自身がアーティストとして成功するために、大学でミュージックビジネスを勉強しています。18歳に限らず、ミュージックビジネス専攻に来れば情報や知見、コネクションが手に入るそのために入学する学生が増える予感がしています。
本山:コロナ禍の状況で、クラシックの演奏家も仕事は与えられるものではなく、自ら発信しなければならないと気付き始めています。配信の技術や方法に興味を持った人もいますし、持続型給付金を活用して活動するアーティストもいます。コロナ禍が生んだ流れの一つだと思います。
山口:ミュージックビジネス専攻では起業の実践も考えています。大阪音楽大学には卒業生も含め、クラシックの演奏家は数多くいますが、彼らは“ペイン”つまり課題を抱えておられます。ミュージックビジネス専攻で、それを解決するサービスを作りたい。成功すれば他の専攻や卒業生、全てが大喜びできるものを。起業に取り掛かる際、ユーザーインタビューが重要ですが、学内ですぐにできるメリットがあります。初期のサービスで重要なPDCA(企画立案→実施→検証→再実施のサイクルを短時間で回していくこと)も可能な環境です。初年度は、クラシックの演奏家を社会で活用できるサービス作りに挑戦したいです。
本山:まさに実践演習ですね。
山口:多くの人にとって最も分かりやすいテーマだと思います。失敗が前提ですので、学生には伸び伸びと挑戦してもらいます。
本山:ミュージックビジネス専攻を、学内外で認知してもらうきっかけになるかもしれませんね。
山口:大阪音楽大学にミュージックビジネス専攻を設けた意味をみなさんに理解していただきたいと思います。
岡本:とにかく音楽が好きで、好奇心旺盛な若者に集まってほしいですね。音楽ビジネスに対する好奇心に応えられるカリキュラム構成だという自負はあります。4年後のカリキュラムは今と全く異なっているかもしれませんが、現状ではベストなカリキュラムになっていると思います。
本山:岡本さんや西川さんにお願いした最大のメリットは、確かな実績があるということです。一からカリキュラムを組み始めるのとは雲泥の差です。どのような教育や実践を積み上げれば社会に通用する人材を育成できるか。それを経験としてお持ちですので、ミュージックビジネス専攻でさらにブラッシュアップしていただければ、最大のアピールポイントとなります。

音楽業界は将来的に有望な職域

岡本:音楽はAIに置き換えられないからこそ、音楽業界の未来に希望があるという話があります。どのようにお考えでしょうか。
山口:世界的な研究家は、エンタテインメントの中でも音楽の領域をAIに置き換えるのは難しいと言っています。しかし、このままだと、デジタルに弱い日本のレコード会社は消えていくでしょう。しかし、音楽がなくなるわけではなくて、音楽の価値はむしろ高まります。そのため、音楽を理解しテクノロジーにたけた人材がいろんな業界から求められるようになります。将来的に有望な職域であり、今後、音楽業界の定義は広がると考えています。ミュージックビジネス専攻で学ぶことにより、活躍できるフィールドはますます広がっていくわけです。
岡本:エンタメ業界に就職するために、どのような勉強をしたらよいかと高校生からよく質問を受けます。私は、友だちや仲間と思いっきり遊んで、本を読んで、映画を見て、音楽をたくさん聴いて、そこから受けた感動を言葉にしてみることが大切だと答えています。AIが台頭しても、感性が必要なアートやエンタテインメントは絶対になくなりません。先ほど本山学長がおっしゃったように、感性でコードにひねりを入れるなど、AIで対応できないからこそ音楽の価値があるので、音楽業界は希望のある業界です。
山口:今日は音楽ビジネスのグローバル化について詳しくお話しできませんでしたが、SNSで世界中とつながる時代なので、グローバルなマーケットを意識することも講座全般を通じて伝えていきます。また、TOEICや英検での高得点を目指す必要は必ずしもありませんが、世界中の外国人とコミュニケーションを取るための実践的な英語とコミュニケーション能力は重要で、重点的に強化します。英語専任講師のKaz Kuwamuraは、大学で英語を教えながら作曲家としても活躍しています。外国人作曲家ともコーライティングをして作品作ってきた実績がありました。音楽をやるためのコミュニケーションするための英語をしっかり身につけてもらいたいと思っています。英米などの英語ネイティブの人と話す以上に、アジアなどでセカンラングエッジとしての英語の重要性は高いです。
岡本:山口さんはレコード会社がなくなるとおっしゃいましたが、それは日本的なドメスティックな対応しかできないレコード会社のことです。例えばソニー・ミュージックエンタテインメントやユニバーサルミュージックなど、ワールドワイドで展開している会社は残っていくと思います。
山口:もう世界では、レコーディッドミュージックインダストリー(録音された楽曲の産業)と呼ぶようになっています。レコード会社やレコード業界と呼ぶのは日本だけです。なぜかと言うと、全てデジタル化されたからです。グローバルでは、従来のメジャーレコード会社はデジタル対応しつつ、3社に合併して、ユニバーサルミュージックやソニー・エンタテインメント、ワーナー・ミュージックに集約されました。これらの企業は元気ですし、鼻息が荒い。日本のレコード会社は世界目線では、インディーズ、もしくはドメスティックメジャーということになるのですが、日本以外のインディーズレーベルもデジタル化で売上を伸ばし、活性化しています。
岡本:音楽ビジネスにおいて、日本は韓国よりも遅れているという話がありましたが、日本は人口が多かったため自国だけで十分ビジネスが成立したのです。一方、韓国の人口は日本の半分以下なので、国の政策として世界に打って出る必要がありました。これからの日本のマーケットは小さくなっています。デジタルを駆使し、世界を相手に音楽ビジネスを展開せざるを得ないでしょう。
山口:韓国は世界に先駆けてブロードバンドを導入した国でそのまえに世界で最初にレコード業界が崩壊した国です。早くから海外に活路を見出したことで、今の隆盛があるわけですね。ところで、K-POPは日本から始まったのをご存じですか。東方神起とBoAがK-POPの元祖で間違いないと思います。これは日韓合作であり、どちらかというと日本人の手法を韓国人が学んで始めました。彼らは非常に野心的なので、今や日本をサブマーケットとして、アメリカ、アジア全域を相手に音楽ビジネスを展開しています。ずいぶん離されてしまいましたが、日本にできないことではありません。日本もやるべきです。これから大学に入ってくるような若い世代に期待したいですし、応援します。
岡本:最後に本山学長からメッセージをお願いします。
本山:ミュージックビジネス専攻の開設にあたっては、多くの方に支えられながら着々と準備が進んでいます。私の役目は、今日お聞きした話を学内の皆さんに伝え、理解を深めていただくことです。そして最大のミッションは、音楽ビジネスに関心のある多くの高校生とつながり、興味を呼び起こし、本学に目を向けていただくことです。本学にはさまざまな音楽が渦巻いていますので、ミュージックビジネス専攻がスタートすれば、さまざまな可能性が広がります。今日のお話を通じて、認識が深まった点も多く、開設がますます楽しみになってきました。本日はありがとうございました。
岡本山口:ありがとうございました。

以上