大阪音楽大学・大阪音楽大学短期大学部
理事長 学長 中村 孝義
大阪音楽大学/大阪音楽大学短期大学部
大阪音楽大学 専攻科/大阪音楽大学 短期大学部 専攻科
大阪音楽大学 大学院
2010年度(平成22年度)卒業式 学長式辞
先ほど、このたびの東日本大震災で亡くなられた方々に対し、皆様とともに黙祷をさせていただきましたが、卒業のお祝いを申し上げる前に、あらためて被災地の方々にお見舞いを申し上げるとともに、ご逝去された方々に心から哀悼の意を表したいと思います。
さてただ今、学校法人大阪音楽大学が誇るこのザ・カレッジ・オペラハウスで、卒業証書、修了証書、学位記を受けられた290名(短期大学部:181名)の皆さん、本当におめでとうございます。本学の全教職員を代表して、ここにご列席の来賓や教職員の方々とともに、心よりお祝い申し上げます。またご臨席いただきました卒業生や修了生のご家族の皆様、及び関係者の方々にも心よりお祝い申し上げます。
われわれも16年前に、大地震の恐ろしさを、身をもって体験しました。今なお30万人余りもの人々が、厳しい避難生活を余儀なくされている現状を思いますと、お祝い事は控えた方が、という思いもよぎらない訳ではありませんでした。しかしここに集まった前途有望な若い皆さんが、社会に大きく羽ばたいてこそ、今、未曾有の国難に遭遇しているわが国が力強く復興し、明るい将来が開かれるに違いない、その門出をぜひ祝福したいという、大阪音楽大学全教職員の気持ちを、どうかご理解いただけたらと存じます。
さてこうした時だからこそ、私はより強く思うのですが、皆さんが、今日の栄えある卒業式を迎えられたのは、もちろん皆さん自身が努力してこられた成果であることは言うまでもありませんが、これまで皆さんを様々な形で励まし、支えてこられたご両親ご家族をはじめ、ご指導いただいた先生方、同級生、先輩、後輩など多くの方々の温かい支援があったからということを決して忘れてはならないということです。今後はそうしたご恩に対する深い感謝の気持ちをもって、皆さんを支えてくれた人々や社会に、その恩を返していかねばなりません。それは皆さんの一人一人が、これまで培ってきた様々なことを、精一杯社会や人々に役立てるよう努力するということです。
しかし、あの大地震や大津波の惨状を目にし、被災者の方々の苦しみや絶望に心を痛め、東北や関東の、さらには日本の将来に大きな不安を抱いている人の中には、今までわれわれが取り組んできた音楽が、こうした想像を絶するような現実を前にして、果たして何の意味があるのかと、無力感を感じられた方もおられるかもしれません。ですが私は、こうした時だからこそ、逆に「音楽の力」「音楽する人間の力」「音楽人が果たせる力」を自覚せねばならないと考えています。
16年前にあの阪神淡路大震災が起こった時、われわれ音楽人の間にさえ、このような非常時に音楽をするなど不謹慎である、被害を受けた方々に失礼である、といった雰囲気が流れました。私の中には、それでは自己を否定することになるのではないかという、何か割り切れない、またやりきれない思いが心に残ったことを忘れることが出来ません。
ところが震災後まだ何日も経たない時に、荒れ果てた被災地で、勇気を持って音楽を奏で、歌を歌う人が現れました。その時、その人たちは不謹慎だと非難されたでしょうか。実はそうではなかったのです。そこには、被災した人たちが音楽する人たちを取り囲み、奏でられる音楽や歌に涙を浮かべながら聴き入る姿がありました。音楽する人たちが奏でた音楽や歌には、多くの亡くなられた方たちの魂を心から鎮めたり、また悲しみに打ちひしがれる人たちの心を慰めたり、悲惨な中でも生きる勇気を与える「強い力」があったからです。私はこのときほど、音楽というものの持つ力の大きさを心から感じたことはありません。音楽は本当に天に召された人たちの霊を鎮めたり、悲しみのどん底に沈む人たちの心を慰めたり、絶望に打ちひしがれた人に勇気を与えたりできる力があるのです。
われわれ音楽人は、一人ひとりが、まずこの音楽が持つ力を自覚せねばなりません。第2次世界大戦以後、日本が経験したことがないような困難に遭遇している今だからこそ、音楽をするわれわれ自身が、この「音楽の力」を心から自覚し、その力を社会に届けていかねばなりません。ただもう一言申し添えておきたいのは、「音楽の力」や「音楽人の力」は、実際に歌を歌ったり、音楽を奏でたりすることによってしか発揮されないのではないということです。音楽に真剣に取り組んでこられた皆さんには、さらに大きな力が備わっているということを自覚して欲しいということです。 皆さんは、大阪音楽大学で音楽を学ぶ中において、はじめは自分一人だけだった小さな世界に、仲間が増え、世界が少しずつ拡がり、つながっていく楽しさを経験されたに違いありません。また仲間とともに音楽をする中で、相手の気持ちを思いやることや、自分の音楽に対する気持ちを見つめ直すことで、音楽や人間、さらには世界との向き合い方をより一層深めてこられたに違いないと思います。
仲間と競い合い、磨きあい、努力し、我慢し、持続し、その結果としてどれほど大きな達成感が得られるかも経験されてきたでしょう。そして音楽という一つのことをやりぬくことで、決して折れることのない太い芯を身に付けられたに違いありません。つまり私は、皆さんが、大阪音楽大学で、音楽によって、「生きていく力」と呼べるものを学ばれたと確信しています。
私は、大学の内外で催される多くの演奏会などを通じて、たくましく成長した学生の姿を見るたびに、そうだ、力強く生きる人から生まれる音楽だからこそ、聴く人の心に届くのだと思うのです。どうか大阪音楽大学で培われた太い芯を自信に、実際に音楽する時はもちろん、楽譜のないところでも、実際に音を奏でることができなくとも、目の前の世界を広げ、人と出会い、想いを届け、心を動かし、たくさんの笑顔を社会に作り出していって欲しい。
私は、皆さんが、音楽を真ん中にして、そこから、さらに世界を広げていける人間であって欲しいと願っています。そして音楽から学んだことを糧にして、社会や世界を豊かにできる人すべてが、大阪音楽大学が社会に誇りを持って送り出せる「音楽人」だと考えています。厳しい時代だからこそ、「音楽人」の「音楽人」たる自覚と勇気が必要なのです。大阪音楽大学で学んだ、また培った皆さんの音楽力や人間力を最大限に発揮して、どうか日本の社会や人々に素晴らしい「音楽の力」を届けてください。そして日本を素晴らしい夢のある国に変える力になってください。
自分が心から愛する音楽に、限りない情熱を注いだ大阪音楽大学での経験は、きっと思いがけないほどの力となって役に立ってくれると確信しています。そしてまた、本学やその関係者も、そうした皆さんに対して、いつまでも支援を惜しみません。大阪音楽大学や大阪音楽大学短期大学部、専攻科、大学院を卒業、修了した皆さんが、その力を本当に発揮できるかどうかが、日本社会の未来の鍵を握っているとさえ私は思っています。
最後に私が座右の銘としている20世紀を代表する社会学者、経済学者であるマックス・ウエーバーの言葉を皆さんに、はなむけとして贈りたいと思います。
「もしこの世の中で、不可能な事を目指して粘り強くアタックしないようでは、およそ可能なことの達成も覚束ない」
一見不可能と思われることを目標に掲げ、それに挑戦する意欲を持って、粘り強く努力をしないようでは、可能なことも可能にならないということです。皆さんが高く理想を掲げ、信念と情熱を持ってアタックし、未来を大きく豊かに開いていかれることを心より祈っています。


