作曲家、鈴木英明と《鬼娘恋首引》

初演は1980年(昭和55年)4月18日、創作オペラの会「葦」からの委嘱をうけて、芦屋ルナ・ホールで上演された。台本、演出は茂山千之丞である。狂言「首引」を種本とし、「理屈抜きで楽しめる作品を」という茂山の意図をくんだ作品となっている。初演時より10回を越える再演を重ね、本学のザ・カレッジ・オペラハウスには2006年(平成18年)の改訂版初演、2009年(平成21年)の抜粋上演、そして2014年(平成26年)10月11日、13日の上演では井原広樹(現・客員教授)演出により、同時上演のブリテン《カリュー・リヴァー》とともに文化庁芸術祭大賞を受賞した。

歌曲の作曲を通して、鈴木は日本語のリズム、抑揚を生き生きと歌うことにこだわってきた。《鬼娘》では茂山千之丞に台本を狂言として読んでもらい、その録音を繰り返し聞くことで、ことばのリズムなどを身体に染み込ませ作曲した、と述べている。

また、鈴木は退職記念の特別講義(2007年3月)のなかで、日本人がヨーロッパの音楽を学ぶ上で、無批判であってはならず、消化し、発酵させることの大切さと同時に「文化は地域に根ざした伝統や生活のなかで芽生え、育っていくものです。文化を深く理解するには、ルーツを求め見極めていく必要があります」と述べている。東洋的な音楽に、若い時期、何の興味も抱かなかった鈴木が、「中年を過ぎる頃より、かつて母親がつまびいていた三味線音楽に深く共感を覚えるようになった」と述懐していることからも、その感性と関心の変遷をうかがい知ることができる。《鬼娘》は鈴木が、東洋、日本の文化に対して真摯に向き合うようになったその結実として捉えることができるだろう。

今回の井原広樹による演出は、茂山演出が狂言色を強く打ち出していたのとは全く異なる現代的味わいをもった舞台であった。鈴木自身はこの上演のために、練習にしばしば立会い、ゲネプロ(最終総括練習)の最後の瞬間までスコアを手にし、オーケストラに細かな注文を出し続けた。

 

画像 [ 鈴木英明 ]
静岡県出身、1963年、東京藝術大学音楽学部作曲科卒業。
歌曲をはじめ、ピアノ曲、管弦楽、オペラなど様々なジャンルの作品を手がけてきた。
これまでに作品数は400にのぼり、オペラ《鬼娘恋首引》は代表作の一つである。
オペラ作品には他にグランド・オペラ《源氏物語》、《イワイさまおじゃったか》、《出口なし》などがある。