西日本初の4面舞台劇場の誕生とヴェルディのオペラ初演シリーズ

1998年(平成10年)、風光明媚な滋賀県大津市の琵琶湖畔に「滋賀県立芸術劇場びわ湖ホール」が開館した。基本計画から竣工まで、9年を要したという。大・中・小の3つのホールを有し、あたかも大きな白波のような、あるいは風を捉えた帆船を模したような、実に様々なイメージを喚起する斬新な外観が特徴的な建築となった。その外観のみならず、大ホール(1848席)は西日本初の4面舞台を備え、大規模なオペラやバレエ公演に適した舞台芸術専用劇場(プロセニアム型)兼コンサート・ホールとして大きな注目を浴びた。このような多面舞台の劇場としては、日本初の3面舞台と謳われた愛知県芸術劇場大ホール(1992年)をはじめ、よこすか芸術劇場(3面舞台、1994年)、アクトシティ浜松大ホール(日本初の4面舞台、1994年)、富山市芸術文化ホール(3面半舞台、1996年)、新国立劇場オペラパレス(4面舞台、1997年)などが全国各地で次々と誕生し、1990年代はさながら国内劇場建築ラッシュの様相を呈した時代となった。

びわ湖ホールは、初代芸術監督に国際的なオペラ指揮者として名高い若杉弘を迎えた。また、開館に先立って日本初の公立劇場専属となる「びわ湖ホール声楽アンサンブル」を設立し、ホールの創造活動の1つの核とした。1998年(平成10年)9月5日、開館記念「オープニング・ガラ」を大ホールにて開催。若杉弘指揮大阪センチュリー交響楽団、松山バレエ団、びわ湖ホール声楽アンサンブル、関東と関西の気鋭の歌手陣により、ハイライトながら日本での初上演となったロッシーニのオペラ《湖上の美人》や、チャイコフスキー《白鳥の湖》からのシーンなど、「湖」に因んだ演目で幕を開けた。公演のメインにはJ.シュトラウスⅡ世の《こうもり》から「祝宴の場」が上演され、まさに開館に相応しい祝祭の音楽がホールを華麗に彩った。当ガラ公演を皮切りとして、劇場の3つのホールにて翌年3月に至るまで計23の開館記念事業、全72公演を挙行。ジョルダーノ《フェドーラ》(本邦初演)などを上演したボローニャ歌劇場の引越し公演(9月)、滋賀県とミシガン州の姉妹提携30周年記念として初来日したデトロイト交響楽団演奏会(11月)、キーロフ・バレエ(現・マリインスキー・バレエ)の《くるみ割り人形》(12月)といった外来公演のほか、若杉弘が指揮と案内役を務めた「青少年シンフォニーホール」(10月)や、びわ湖ホール声楽アンサンブルを主体とした「青少年オペラ劇場」(1999年2、3月)など、次世代の音楽的啓蒙を目的とした同ホールならではの自主企画も展開した。

特に、国内外で活躍する日本人歌手を起用し「びわ湖ホール・プロデュースオペラ」と銘打ったヴェルディの《ドン・カルロ》上演(1999年1月)は、5幕版による本邦初演として話題を集め(若杉弘指揮、鈴木敬介演出、京都市交響楽団、びわ湖ホール声楽アンサンブル、東京オペラシンガーズ)、同年10月には同作曲家の《群盗》の本邦初演が続いた。同ホールは翌2000年以降、毎年1作ずつヴェルディのオペラの自主制作上演(全て本邦初演)をシリーズ化し、2006年に至るまで継続した(全9作)。このシリーズは文化発信の主要事業の1つとして位置付けられ、その充実した演奏のみならず、本場イタリア人デザイナーらによる豪華な衣装や舞台装置なども反響を呼び、全国のオペラ・ファンの関心を大いに集めることとなった。

1999 《ドン・カルロ》(5幕版)、《群盗》
2000 《ジャンヌ・ダルク》
2001 《アッティラ》
2002 《エルナーニ》
2003 《シチリアの夕べの祈り》
2004 《十字軍のロンバルディア人》
2005 《スティッフェリオ》
2006 《海賊》
(2007年に予定されていた《レニャーノの戦い》は、若杉弘の新国立劇場芸術監督への転出により実現しなかった)

同ホールは、「西日本に初めて誕生した本格的なオペラ劇場として、開館当初から芸術監督によるプロデュースオペラや子どものためのオペラを制作。日本で唯一の専属声楽アンサンブルを有し、アウトリーチや地域の演奏団体・ホールとの協働事業を行うなど、“関西オペラの拠点”として音楽文化の振興と普及に貢献した」として、2011年(平成23年)度地域創造大賞(総務大臣賞)を受賞している。