関西楽壇におけるモーツァルト没後200年

才人モーツァルトの世俗的な側面をクローズアップし、従来の作曲家像を大いに刷新した映画「アマデウス」(1984年制作アメリカ映画)が、1985年(昭和60年)2月に日本で初公開された。この映画がクラシック・ファンを超えて大ヒットした翌年の1986年(昭和61年)末より、日本国内はバブル景気に沸いてゆく。各地で音楽専用ホール建設ラッシュが起こり、コンパクト・ディスク(1982年初発売)の加速的な普及などに伴って、1980年代半ば以降クラシック音楽は商業的なブームを迎えることになる。また世界的な視点で言えば、優れた時代考証・研究に基づいた海外のオリジナル楽器演奏団体による古楽ブームが興っており、バロック音楽のみならず古典派音楽などへの斬新なアプローチが注目を集めていた。このような時勢の中、1991年(平成3年)の“モーツァルト没後200年”というメモリアル・イヤーを迎え、ザルツブルクやウィーンといったモーツァルトに縁の深い都市は無論のこと、日本国内でも様々な音楽企画が盛大に催されたのであった。

首都圏では、アンドレ・プレヴィン指揮ウィーン・フィルなどが来演した「ザルツブルク・モーツァルト音楽祭1991」(3月:サントリーホール)、東急文化村がニューヨークのリンカーン・センターと提携した「モーストリーモーツァルトフェスティバル1991」(8~9月:オーチャードホール)、そして、音楽学者の海老澤敏主宰による「1991国際モーツァルト・シンポジウム」(11月:国立音楽大学)といった大々的な音楽フェスティバルや音楽学会などが開催された。

関西では大きなフェスティバル規模の企画こそなかったものの、大阪ではモーツァルト関連のコンサート数は300を超えたとも言われている。このような中で没後200年記念の主要企画としては、モーツァルトゆかりの貴重な資料を展示した「ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト展」(1~2月:いずみホール)や、モーツァルトが没年(1791年)に作曲した作品による全9公演の「甦る最期のきらめき〈モーツァルト1791/1991〉」(1~12月:いずみホール)といった同ホールの自主企画のほか、大阪フィルハーモニー交響楽団による交響曲を中心とした全5回の「アマデウス・モーツァルトシリーズ」(7~12月:いずみホール)などがあった。また、大阪オペラ協会の創立5周年記念の《魔笛》公演(7月:森ノ宮ピロティホール)では、落語家の桂三枝(現・桂文枝)がオペラ演出に初挑戦。モーツァルト室内管弦楽団による「モーツァルト・マラソンコンサート第1回」 (3月:いずみホール)では、国内初の試みとしてモーツァルト自身が催した1783年3月23日の予約演奏会を再現し、実に3時間を越えるコンサートが行われるなど、関西楽壇ならではのユニークで注目度の高い企画も実施された。

外来では、ロンドン・モーツァルト・プレイヤーズの来演(1月:いずみホール)を筆頭に、ザルツブルク州立歌劇場による《コジ・ファン・トゥッテ》、《劇場支配人》の上演(5月:フェスティバルホール)、ギドン・クレーメルの弾き振りによるドイツ・カンマーフィルハーモニー管弦楽団とのヴァイオリン協奏曲全曲演奏会(6月:ザ・シンフォニーホール )、ウィーン室内歌劇場による《フィガロの結婚》、《ドン・ジョヴァンニ》の上演(10月:アルカイックホール、姫路市文化センター)など、モーツァルト・イヤーに相応しい公演が繰り広げられた。さらには古楽ブームを反映した公演として、トン・コープマン指揮アムステルダム・バロック・オーケストラによる交響曲全曲演奏会(5~6月、11月:ザ・シンフォニーホール)、ジョス・ファン・インマゼールの弾き振りによるアニマ・エテルナ・オーケストラとのピアノ協奏曲全曲連続演奏会(10月:京都府民ホール アルティ)といった世界的な古楽奏者たちによる画期的なチクルスが開催され、関西楽壇に鮮烈な足跡を残した。

なお、本学のザ・カレッジ・オペラハウスは前年に開始した“モーツァルト・オペラ・シリーズ”の一環として、新制作の《コジ・ファン・トゥッテ》(4月:松尾葉子指揮・栗山昌良演出)、《フィガロの結婚》の再演(5月:小泉和裕指揮・栗山昌良演出)を行った。本学出身の歌手を起用した親和性の高い舞台、当オペラハウスのキャパシティに相応しい演奏規模の清新なモーツァルト公演を実現し、記念すべきモーツァルト・イヤーに華を添えた。