カリキュラム変革──日本初クラシックからジャズ・ポピュラーまで

今回のカリキュラム改革は1989年(平成元年)11月13日、永井学長ら8名の構成員によって開催された第1回教育改革推進会議から始まった。これは先に進められていた入試改革と連動したもので、多様な方式で入学して来る学生に対応し、さらにそれらの学生の多様化する進路に適した教育内容を構築していく必要があった。音楽大学本来の技能の進展を図る芸術教育とともに、社会状況に即した現実路線の教育の併存をめざし、検討が重ねられた。

奇しくも同じ頃、文部省の大学審議会より「大学設置基準の弾力化」が審議概要報告として公表される。これは個々の大学がその教育理念、目的に基づく特色ある教育研究を展開できるように、国が従来定めていた教育課程の詳細な基準を大幅に改め、その要件を緩和する代わりに教育研究の質の保証を大学自身に求めるという方向性を示唆するものであった。このことも視野に入れつつ、各専攻のメンバーを加えた26回の会議を経て新カリキュラムの概要が決定、1991年(平成3年)2月の教授会で了承された。同年7月、文部省令「大学設置基準」も改正される。

新カリキュラムは幅広いニーズに応えるべく、かつてない大改革を施した内容となった。最大の特徴としてまず挙げられるのは、短大音楽専攻に日本の音楽大学として初めてジャズ・ポピュラー部門を導入、吹奏楽専門の「ウィンド・アンサンブル・コース」やミュージカル・クラスも設置して、新たな分野にアカデミックな教育の扉を開いたことである。これまでのクラシック演奏家の養成という音楽大学のイメージを破るものとして全国的に大きな反響を呼び、初年度から予想以上の受験生が集まった。一方大学は4年間を基礎作りのジュニア、進路を見据えたシニアの2段階に分け、シニア段階において学生の自主選択を尊重する3つのコースを設定した。また大学・短大ともに学外での学修体験も評価対象に加え、フィールド・ワーク的活動、演奏会出演、オペラのスタッフ、伴奏など創作活動・演奏論・伴奏論・舞台論の4種を「特別実習」として単位化。文部省の「大学設置基準」の改正により、外国語・一般教育科目の必修の枠組を緩め、志向に応じて自由に選択できる部分を増やした。

平成4年度(1992年度)より新カリキュラムを実施。音楽専攻ではジャズ・ポピュラー部門導入にあたって、アメリカの世界的なジャズ・ピアニスト、ハンク・ジョーンズを客員教授に迎える。同教授は春秋2回の講義でウィンド・アンサンブル及びピアノ・コースのジャズ・クラスを指導、毎年ザ・カレッジ・オペラハウス主催の演奏会でその卓越した演奏も披露した。同じく音楽専攻では、水曜日の第4時限に様々な角度から音楽を考える特別講義「テーマ研究講義」を開講、申し込みにより一般にも公開した。

創立から77年、時代の変化に伴う音楽文化の多様性を取り入れたこれらの教育刷新によって、本学は従来の音楽大学の概念を超えた新たな姿を整えて前進して行くこととなった。そしてそれはまた、創立者永井幸次のめざした「世界音楽 並に 音楽に関連せる諸般の藝術は 之の学校によって統一され…(原文は仮名部分カタカナ)」という本学の建学の精神に、より近づくものでもあった。

新カリキュラム概要は以下の通り


 

  【大学】

 

◆ジュニア段階(1・2年次)
大学人としての教養、自己の音楽の基礎作りを中心にしたカリキュラムを設定。 各専攻の実技レッスンとそれを補完する各専攻基礎講座を4年間の学修のベースに、音楽基礎科目(音楽理論、ソルフェージュ、鍵盤楽器)や専攻指定科目(音楽史、合唱、合奏など)で取り囲み、各自の音楽能力が高められるようにした。
 
◆シニア段階(3・4年次)
各人の志向と能力の特性ができるだけ反映されるよう3つのコースに類別する。

 

<Ⅰ類> 学生の志向に幅広く対応できるコース
必修科目が少なく、各自の適性に合わせてより自由に科目選択ができる
履修:固有の履修計画を持って学修しようとする者
 
<Ⅱ類> プロフェッショナルな音楽家をめざすコース
特に優れた専攻技術と能力を持った学生を専攻別に集め、独自のトレーニングと豊富な実践経験によって、個人の能力を最大限に伸ばす
履修:希望を募り、専攻ごとの適性検査に合格した者
 
<Ⅲ類> 音楽研究者、教育者等をめざすコース
知的充実度の高い、専攻の枠を超えたゼミ形式の科目を開設
自己の音楽を中心に、自主的研究の能力を高め、感性を磨く
履修:希望を募り、1・2年次の履修状況(科目により面接・作文等を加える場合も)に達し、なお一定の基準を満たしている者
 

尚、類別の詳細な定義は各専攻により異なり、設置についても次のように規定。

 楽理・器楽・声楽専攻:Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ類
 作曲専攻:Ⅰ、Ⅱ類
 オルガン・箏専攻:Ⅱ類

この類別型システム実施後、シニア段階の3、4年次が初めてそろった平成7年度は全766名中、Ⅰ類が64%、Ⅱ類が23%、Ⅲ類が13%であった。
 

Ⅲ類研究ノート
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専攻の枠を超えて自主的研究を行うⅢ類には自由に選択できる12科目を用意。
単独あるいは共同研究も可で、科目ごとに優れた研究を推薦、その研究ノートを小冊子にまとめてⅢ類の成果として発表した。




 

 
  【短期大学部】



◆作曲・声楽・器楽専攻
大学と同じく実技レッスンと専攻基礎講座を学修のベースとし、これを音楽基礎科目や専門教育科目で固める。

◆音楽専攻
カリキュラムの重点を“音楽を体験”する実践的科目に置く。専門教育科目として第1専門、第2専門、共通専門の3種類の授業を設置。第1専門にはクラシックからジャズ・ポピュラーに至るまで、多様な音楽ジャンルに対応する6コースを開設。第2専門は第1専門を別の側面からカバーし、音楽の視野を広げ、知識・体験を豊かにする為のもので、学生は8種類の中から1つを選択する。2年生に進級する際に第1専門を継続することも、実力が伴えば第2専門を第1専門に置き換えることも可能とした。

 

 <第1専門>

 [ヴォーカル・コース]
 ・オペラ・クラス
 ・日本の歌クラス
 ・ミュージカル・クラス
 ・ポピュラー・クラス
 

 [ウィンド・アンサンブル・コース]
 ・吹奏楽クラス
 ・ジャズ・クラス

 [ピアノ・コース]
 ・古典派クラス
 ・ロマン派クラス
 ・ポピュラー・クラス
 ・ジャズ・クラス
 

 [ストリング・アンサンブル・コース]

 [電子オルガン・コース]
 ・クラシック・クラス
 ・ポピュラー・クラス
 ・シンセサイザー・クラス
 

 [リコーダー・ギター・アンサンブル・コース]   
 ・リコーダー・クラス
 ・ギター・クラス
 <第2専門>

 ○ヴォーカル

 ○ピアノ

 ○管打楽器

 ○リコーダー

 ○ギター

 ○電子オルガン

 ○作曲

 ○キーボード・シンセサイザー  



 
 
カリキュラム実施に先立ち1991年6月、上記のうち2コースをサポートする為のプロ合奏団「インテグレーティッド・ウィンズ」、「インテグレーティッド・ギターズ&リコーダーズ」を本学出身の若いアーティストで結成。合奏の中での実践教育に備えた。この合奏団は積極的に演奏活動を展開。中学、高校などでの吹奏楽クリニックも行った。

 


 
<音楽専攻総合パンフレットと各コース・クラス広報チラシ>
 
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<音楽専攻 公開特別講義「テーマ特別研究」>

学内外各方面の専門家が講師となり、水曜日の第4時限に講義を行った。申し込みにより無料で一般にも公開した。第1回は1992年4月15日の井藤宏就職指導課課長による「音楽専攻卒業後の進路」。初年度は24講義を開講した。
 
井藤宏
「音楽専攻卒業後の進路」
佐々木昭雄
「ジャズ・インプトヴィゼーション=電子オルガン」
永井譲
「“おんがく”へのアプローチ─音楽の基礎常識─」
丸谷明夫
「吹奏楽部のクラブづくり」
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4月15日
5月13日
6月17日
9月30日

 

 

 
<音楽専攻の改組後初の各クラス発表会>

新設コース発足から半年、各クラスの成果を発表する演奏会(全10回)が相次いで開催された。11月4日のジャズ・ポピュラー発表会には各コースのジャズ、ポピュラーなどのクラスが合同で出演。翌平成5年度(1993年度)からも引き続き、音楽専攻発表会として開催していく。
 
ジャズ・ポピュラー 日本の歌 ミュージカル 電子オルガン(Ⅰ) ストリング・アンサンブル
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11月4日 11月25日 12月2日 12月9日 12月9日
         
吹奏楽 リコーダー・ギター オペラ 電子オルガン(Ⅱ) ピアノ・ソロ&アンサンブル
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12月9日 12月15日 12月16日 ‘93年1月13日 1月20日


 


 
<音楽専攻フェスティバル>

1993年7月26日には新カリキュラム第1期生たちによる第1回音楽専攻フェスティバルが開催される。6コースの壁を超えて学生が提携し、実行委員会を作って企画・制作・広報・進行など全て手作りで行った。これは実践的教育により卒業後、各方面で音楽の喜びを伝え、率先して音楽活動に参画できる人材の育成をめざすという新たな音楽専攻の成果であった。
 
ルネサンスのみやび 《La Sonnambula》 日本の叙情 FINLANDIA
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SYNPHONIC SUITE MUSICAL ALBUM JAZZ&POPS in HISTORY
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会場となった旧ホール前 オリジナルうちわ  
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