大阪フィルハーモニー交響楽団 初のヨーロッパ・ツアー

朝比奈隆率いる大阪フィルハーモニー交響楽団は1971年(昭和46年)11月に韓国のソウルを訪れ、初の海外公演を行った。そして同団は1975年(昭和50年)10月、約1ヶ月にわたる初のヨーロッパ・ツアーを実現する。このツアーはその3年前、スイスのモントルー音楽祭(現・モントルー=ヴヴェイ音楽祭)の第30回記念に招聘されたことが大きなきっかけであったという。しかし当時、第1次オイル・ショックの影響により関西の景気は低迷、スポンサーの関西財界も難色を示し、楽団は公演資金工面に難渋する。公的補助はあったものの、計画そのものが危ぶまれる事態に。こういった状況の中、大阪フィルの永年のファンらが「大阪フィルをヨーロッパへ送る会」を結成し地道な募金運動を展開。マスコミの報道等もありこの運動は一気に高まり、老若男女を問わずあらゆる市民層からの多額の寄付が集まることとなった。朝比奈と大阪フィルが如何に市民に愛されていたかを物語るエピソードである。

またツアーの2ヵ月前の8月18日には、公演資金を募る事業の一環として「大阪フィルをヨーロッパへ送る演奏会」がフェスティバルホールで行われ、大阪フィルを朝比奈隆と外山雄三が指揮、大阪府音楽団と大阪市音楽団が賛助出演した。さらには桂米朝が特別出演し、大阪フィルを指揮。ビゼーの《カルメン前奏曲》等を披露して会場を大いに盛り上げたのも話題となった。こうして一行は9月29日に大阪を出発。10月2日、スイスのラ・ショー=ド=フォンを皮切りに、オーストリア、イタリア、オランダ、そして当時西ドイツのリューベックにおける27日の公演を最終とした全5ヵ国20公演という大規模なツアーを行い、10月31日に大阪に帰着した。

このヨーロッパ・ツアーには指揮者として朝比奈隆の他、秋山和慶が参加。独奏者として内田光子、朝比奈千足、そしてネルソン・フレイレが共演している。各奏者が披露した主な演目は下記の通りである。

 

 朝比奈隆



 
 ベートーヴェン
 シューマン
 ブルックナー
 シベリウス
 大栗裕
 《交響曲第3番》
 《交響曲第4番》
 《交響曲第7番》
 《交響曲第2番》
 《大阪俗謡による幻想曲》
 秋山和慶
 
 フランク
 チャイコフスキー
 《交響曲》
 《交響曲第5番》
 内田光子
 
 ショパン
 シューマン
 《ピアノ協奏曲第1番》
 《ピアノ協奏曲》
 朝比奈千足
 
 モーツァルト
 ウェーバー
 《クラリネット協奏曲》
 《クラリネット協奏曲第2番》
 ネルソン・フレイレ  シューマン  《ピアノ協奏曲》

 


当時の欧州各地の新聞評からは大阪フィルは現地で熱く迎えられ、高い評価を得たことが伝わってくる。

「大阪フィルハーモニー交響楽団のメンバーは、まれに見る充実した、
 
全く文句のつけようのない豊かな響きで演奏し、しかも細かな音のニュアンスをえがき分け、
 
さらにその演奏は精緻を極めたものであった」(ウィーン:10月15日)
「大阪フィルハーモニーは楽団として羨むべき若さを持ち、その平均年令からは演奏する喜び、
 感動の可能性が感じられた。信じられぬ程のダイナミズム、ヨーロッパ音楽の深い理解と体得が聞きとられた」
(ヴィルヘルムスハーフェン:10月27日)


また朝比奈の指揮に関しては、

「朝比奈のシューマンはむしろブラームス、或いはブルックナーに近いもの」(バーゼル国民新聞:10月11日)
「ベートーヴェンの交響曲が日本で高い尊敬をうけていることは周知の事実である。
 
朝比奈の解釈の裡には美神(ミューズ)への献身のような姿勢が感じられた」(ターゲスシュピーゲル紙:10月26日)
「厳格に出来る限りテンポの揺れを避けて驚くベく統制のとれたオーケストラの演奏をいささかも妨げることなく指揮した」
(ベルリン朝報:10月26日) 

等、その演奏特質を確実に捉えた評となっている(上記新聞評は『大阪フィルハーモニー交響楽団ヨーロッパ演奏旅行1975』より引用)。

またこのツアーで特筆すべきは、10月12日にオーストリアのリンツで行われた公演であろう。朝比奈の指揮により、ブルックナーの《交響曲第7番》が作曲者自身の眠る聖フロリアン聖堂で奉納演奏され、豊かな残響に伴われた奇跡的なライヴ録音として残されることとなった(日本ビクター収録)。なお当公演にはブルックナー研究家のレオポルト・ノヴァークも来席している。

団名に“大阪”を冠するオーケストラが、官民らの大いなる期待を背負って挙行したこのヨーロッパ・ツアーは、1970年(昭和45年)の万国博で国際的な知名度を高めた大阪の、その文化の一使者たる責務を担った極めて重要な公演であった。この後大阪フィルは、1980年(昭和55年)4月に北米ツアー、1986年(昭和61年)10月には第2回目のヨーロッパ・ツアー、そして1992年(平成4年)10月に第3回目となるヨーロッパ・ツアーを行っている。

 

 

「大阪フィルをヨーロッパへ送る会」募金の呼びかけ(左)と演奏会(右)チラシ
 

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大阪フィルをヨーロッパへ送る演奏会(8月18日 フェスティバルホール)

 

指揮をする桂米朝*
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挨拶をする朝比奈隆*
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ヨーロッパ公演スケジュール一覧
(『大阪フィルハーモニー交響楽団ヨーロッパ演奏旅行1975』より)

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10月12日 聖フロリアン聖堂でのリハーサル*

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10月13日 ウィーン・コンツェルトハウスでの公演*

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10月21日 ハイデルベルク市立ホールでの公演
(昭和50年11月1日 関西音楽新聞)

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(公財)大阪フィルハーモニー協会提供『大阪フィルハーモニー交響楽団50年史』より