音楽映画の流行

昭和40年代の音楽文化の傾向に音楽ドキュメンタリー映画への関心の高まりがある。関西での皮切りは1966年(昭和41年)第9回大阪国際フェスティバル前夜祭で上映された『ドン・ジョバンニ』であり、予想を超えた人気となって流行を作り出していった。

同年秋の京都における『ドン・ジョバンニ』の上映を経て、翌年行われたのはサンケイホール開館15周年記念における『ばらの騎士』の上映であった。ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮による1960年(昭和35年)のザルツブルク音楽祭の記録で、この映画もまた話題になり、フェスティバルホールで再上映された。1968年(昭和43年)には大阪国際フェスティバル協会の夏の特別行事として『椿姫』も上映されている。

こういったオペラの記録映画だけでなく、一人の作曲家の生涯をその作品の演奏でたどるというような映画も上映される。『モーツァルトの生涯』や『ベートーベンの生涯』などである。また著名な演奏家の演奏記録となる映画『フルトヴェングラーと巨匠たち』『巨匠リヒテルのすべて』『ギレリスの芸術』『世紀のアンドレス・セゴビア』などもあった。

当時、カラヤンは映画をより広く音楽を提供できるメディアととらえ、革新的な音楽ドキュメンタリー映画を自ら制作し、次々に発表していた。『カール・ベーム』に始まる指揮者の巨匠シリーズや自らが演奏し、インタビューに答えるシーンなどを収録したドヴォルジャーク『交響曲第9番・新世界』やチャイコフスキー『ピアノ協奏曲第1番』は『巨匠カラヤンの芸術』として2本立てて上映されていた。ベートーヴェン生誕200年記念にあたってはベートーヴェン・チクルスシリーズも制作、各地で上映された。エキスポ・クラシックスのカラヤンの演奏会はチケット入手が困難であったが、「万博、カラヤンを逃した方のために」などという宣伝文句をつけて上映されることもあった。実際、これら音楽映画の人気は、演奏会に行くよりも安価で超一流の音楽家の演奏を見聞きできるといったところにあったようだ。

映像表現について、カラヤンは次のように語っている。「映画にはナマ・コンサートとちがって機動性があり、大衆との接点がふくらむ。また二十世紀なかばをすぎた今日、いつまでも十九世紀のコンサート様式(ナマ)だけにしがみつく必要はなく、新しい音楽形式が開拓されてもよいのではないか。そして音楽鑑賞の仕方としてナマ・コンサート、レコード、映画の三つがあり、レコードも映画もあくまで独自のメディアであって、“ナマ”の代用として考えるべきではない」(昭和45年2月1日『音楽旬報』No.591)。映像が音楽文化の隆盛に大きな役割を果たした、続く時代を予見したかのような言葉である。





映画『ドン・ジョバンニ』チラシ (公財)朝日新聞文化財団提供
音楽記録映画人気の火付け役となった


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映画『ばらの騎士』パンフレット表紙
エリーザベト・シュワルツコップの元帥夫人などが人気を誇り、各地で再上映された


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音楽映画のチラシの数々

 

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(公財)朝日新聞文化財団提供
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カラヤン制作映画のチラシ

 

 

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