世界に先行した日本のデジタル録音

1937年(昭和12年)、イギリスのアレック・ハーリー・リーヴスが音のデジタル化の試みとして、PCM(Pulse Code Modulation=パルス符号化変調)方式を発明。アナログの音声信号をパルス(符号)の形にデジタル化し、信号伝送にこのパルスを用いてノイズ等の影響を受けにくい通信システムを編み出そうとする理論だった。当時の技術水準では実現化は不可能だったが、1948年(昭和23年)にトランジスタが発明されて以降PCM方式の本格的な研究が進み、1962年(昭和37年)に初めて電話の音声伝達方式として応用された。

1965年(昭和40年)、NHK技術研究所はこのPCM方式を用いた録音機の試作に取り組み、1969年(昭和44年)にステレオ仕様の試作機を完成する。このNHKの試作機を用い、1970年(昭和45年)9月14日に日本コロムビアのスタジオで録音され、1971年(昭和46年)1月25日に世界初のデジタル録音によるLPレコードとして発売されたのが、ジャズ・サックス・プレイヤーのスティーヴ・マーカスと稲垣次郎が共演したLPアルバム「サムシング」(日本コロムビア NCB-7003)だった。

クラシックの分野における世界初のデジタル録音盤として発売されたのは、1971年4月25日発売のLPレコード「打―ツトム・ヤマシタの世界」(日本コロムビア NCC-8004-N)である(1990年に初CD化:デンオン COCO-6279)。日本コロムビアが同じくNHKのPCM録音機を用い、同年1月11日に行われたツトム・ヤマシタによる東京文化会館小ホールでの打楽器リサイタルをライヴ収録したもの。楽器の定位感が明瞭で、多彩な音の質感が鮮やかに捉えられている。

​欧州でデジタル録音が初めて試みられたのが1976年(昭和51年)。80年代初頭になってデジタル録音が世界に一般的に普及し始めること考えると、70年代初頭の日本におけるデジタル録音の試みは確かに先進的だったと言えるだろう。1982年(昭和57年)10月1日、CBSソニー、EPICソニー及び日本コロムビアは、世界に先駆けてコンパクト・ディスク(CD)を発売。録音・再生メディアは大きな転機を迎えることになる。





「打―ツトム・ヤマシタの世界」LPレコードとCD

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