前代未聞のオペラ体験

野球場でオペラという、わが国初の試みに本学の学生たちが参加した。この奇想天外なアイデアを実現したのは、オペラに歌舞伎や能を取り入れた斬新な演出で知られる武智鉄二である。武智鉄二後援会と大阪・神戸労音の共催で、甲子園球場と大阪球場を舞台に、空前のスペクタクルオペラという謳い文句で行われた。演目はヴェルデイ《アイーダ》。ちょうど前年にイタリア歌劇団の《アイーダ》公演があり、宝塚大劇場に300人もの出演者が登場したことで、関西でも広く知られるようになっていた。これを野外で上演したらどうなるか、やるからには本場ローマの野外劇場を再現したいという武智の演出意図があったようである。

5千坪のグラウンド全体を使って、長く横たえたビニールの布をナイル河に見立てたり、勅使河原蒼風によるオブジェを置いてエジプトを演出した。有名な凱旋シーンでは阪神パークやみさき公園、阪神競馬場の協力を得て、本物の象やラクダ、馬車などを登場させ、話題になった。演奏は朝比奈隆指揮の関西交響楽団、関西歌劇団で、合唱の一員として本学の学生が出演した。音が拡散するということで、演奏はあらかじめ録音しておいたものを30数台のスピーカーで場内に流し、出演者たちはそれに合わせて演技を行った。

数多くのバレエ、ダンスの団体、エキストラを含め、出演者数のべ700とも800人ともいわれ、800万円もの総経費をかけて行われた、かつてない大がかりなオペラ公演であった。大阪・神戸の労音の例会ということもあり、3日間で7万人の観客を集めたという。しかし、舞台が広すぎ、客席との距離もありすぎて、武智が意図したような迫力ある公演とはならなかったようである。ただ、学生たちはもちろん、指揮者の朝比奈隆をはじめ、関西歌劇団団員として出演していたソリストの桂斗伎子、竹内光男、横井輝男、演出助手としてメガホンを片手に奮闘した桂直久ら本学教員たちにとっても、貴重な体験となったはずである。




プログラム表紙(見開き)

プログラム表紙



キャスト・スタッフ(プログラムより)

キャストスタッフ
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甲子園球場での公演(『関西歌劇団第23回定期公演プログラム』より)
関西地方は連日の雨が開演1時間前にピタリとやんで、3日間は晴天。
翌日からまた雨が降ったそうである


甲子園球場での公演写真

 

再生音での公演であった*
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スコアボードに15mのスフィンクス像*
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武智鉄二(右)と勅使川原蒼風(左)*
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多くの観客がつめかけた*
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(*『毎日グラフ』昭和32年7月28日号より)