創作オペラのメッカ、関西と武智鉄二

1950年代の多彩な創作オペラ公演の相次ぐ上演という現象はなぜ起きたのだろうか。そこには、西洋オペラを日本語に翻訳して上演する際におきる音楽と言語の矛盾、そしてそこから生み出される演技の不毛といった戦前から続く未解決な問題があった。戦前にも創作オペラは山田耕筰の《黒船》などが作曲されたが、戦後、創作オペラは東京ではなく、関西で開花することになる。

その背景には、主として次の2つの動きがあったと考えられる。一つは、さかのぼること1949年(昭和24年)の、「関西オペラ協会」(後の関西歌劇団)の誕生、そして協会の牽引者であった朝比奈隆のオペラに対する情熱、二つ目は、東京の二期会から大阪の労音や音楽家らに協力要請がなされ「創作オペラ専門委員会」が結成され、組織的かつ大規模な「創作オペラ運動」が展開されたことである。1953年(昭和28年)には、関西労音の会員に対して創作オペラへの寄付金を募って「一人一円を創作オペラ基金として積み立てる」運動を展開するなど、今日では想像もつかないほどの「日本語による創作オペラ」への熱意が大衆文化運動として高まりをみせていた。オペラ公演が演奏会に比べて大きな経費を必要とすることを関西では、独自の工夫で克服しようとしたのである。

この関西のオペラ運動の中心人物であった、朝比奈隆は、欧米視察によって得られた本場のオペラ体験を通じて「日本人には日本語による独自のオペラが必要」との信念があった。創作オペラに必要なのは、美しい日本語によるすぐれた台本、その日本語を自然に伝えうる楽曲、そして創作オペラ独自の演出方法だという考えである。朝比奈は関西における歌舞伎演出ですでに才能がみとめられていた武智鉄二(1912〜1988)に関西歌劇団のオペラ演出を依頼し、歌舞伎様式《お蝶夫人》(1954年)、歌舞伎ですでに演目となっていた《修善寺物語》(1954年)、能仕立ての《夕鶴》(1954年)や狂言様式による《赤い陣羽織》(1955年)といった挑戦を次々と繰り出していった。1950年代から60年代にかけて、関西交響楽団と関西歌劇団の2団体が関西の創作オペラ運動を支えていたのである。

日本の伝統芸能をオペラの演出にとりいれる武智の取り組みは当時から賛否両論の大論争をひきおこしたが、その後も生涯を通じて定期的にオペラ演出を続け、亡くなる年の1988年には関西歌劇団の《お蝶夫人》を演出している。近年では、2008年に武智鉄二原演出、井原広樹演出として「大栗裕の世界」(ザ・シンフォニーホール)のなかで《赤い陣羽織》が上演されている。

 

《お蝶夫人》

 


関西歌劇団《お蝶夫人》を演出した2人と朝比奈隆

武智鉄二
(昭和29年7月22日 関西歌劇団
宝塚特別公演《お蝶夫人》プログラム
より)
坂東蓑助
(のちの人間国宝・八代目坂東三津五郎)
(昭和30年6月25日 関西歌劇団《お蝶
夫人》プログラムより
《お蝶夫人》の稽古風景
左から坂東蓑助、武智鉄二、朝比奈隆
(『関西歌劇団50年のあゆみ』提供:関西歌劇団)
武智鉄二 坂東蓑助 朝比奈隆

 

 

昭和29年4月17、18日 関西オペラ第8回公演《お蝶夫人》プログラムより
武智はじめてのオペラ演出となった。朝日放送によって放送録音がされている

朝比奈隆帰朝記念・関西オペラ第8回公演「お蝶夫人」



公演写真(昭和29年7月22~24日 関西歌劇団宝塚特別公演《お蝶夫人》プログラムより

お蝶夫人(第一幕・上演写真)

 

 

 

 

《修禅寺物語》

 

 


昭和29年11月4~6日 舞台初演チラシ

修繕時物語ちらし
 

舞台初演キャスト・スタッフ(プログラムより)

修繕時物語プログラム・キャスト一覧

 

 

《修禅寺物語》作曲家、大阪生まれの清水修 《修禅寺物語》舞台稽古
右端に演出の武智鉄二
清水修 「修禪寺物語」舞台写真

 

《修禅寺物語》練習風景(昭和29年10月26日 新関西)
指揮者:朝比奈隆(左から2人目) 演出:武智鉄二(右端)

「修禅寺物語」の稽古風景

 

《夕鶴》

 

 

昭和29年10月8日 武智演出《夕鶴》の衣裳合わせ(昭和29年10月9日 毎日新聞)
11月18~20日の東京新橋演舞場での公演に向け、京都の片山九郎衛門邸で行われた
左から武智鉄二、茂山千之丞、片山九郎衛門、片山博太郎

衣装合わせ写真




昭和30年1月29日 《夕鶴・東は東》 関西公演プログラム

創作劇「夕鶴」「東は東」関西公演(プログラム表紙)




武智演出、能様式による《夕鶴》(同上、関西公演プログラムより)

夕鶴上演写真

 

昭和30年3月14、15日 関西歌劇団第9回公演 チラシ
 
《夕鶴》が表紙を飾る『音楽文化』1955年5月号
 
夕鶴ちらし 音楽文化表紙

 

《ききみみずきん》

 

 

初演キャスト・スタッフ(昭和30年3月18~31日 プログラムより)
大阪勤労者音楽協議会が制作した初めての創作オペラ

ききみみずきんキャスト一覧



東京での練習風景
壇上で指揮をする作曲者の團伊玖磨

東京の練習場での練習風景 壇上に指揮をする作曲者の團伊玖磨



労音会員による女声合唱団が関西歌劇団合唱部と共演した

私たちの手でオペラが!